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Ninja H2R 〜 ウイングの秘密

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「羽をつけたら絶対目立つと思うんすよ。先輩、どっかから社外パーツが出てないっすかね」
 そう言い出したのはT君だ。チームのマスコット的なキャラクターで、ど派手なドレスアップを施したTZR250に乗っていた。僕より2つ歳下の大学1年生、県外にある大きな寺の跡取りだった。坊主の息子はお経さえ唱えられればいいという大らかな教育方針のもと、天真爛漫に育った彼の口からは、ときどき周りが対処に困るような発言が飛び出した。
「そもそも、なんでバイクには羽が付いてないんですかね」

 なにせ20年以上昔の話だ。その時なんと返答したのか、残念ながら憶えてはいない。「空を飛ばないからだろ」とかなんとか、今の僕なら答えるだろう。
「ほら、F-1マシンには付いてるじゃないですか、ダウンフォースを稼ぐために。なんでバイクにはアレがないんですかね」
 羽というのはスポイラーのことか。ようやく合点がいった。そう言われればそうだ。待てよ、ウイング付きのオートバイってなかったっけ。あったような気がする。確実なのは仮面ライダーV3のハリケーンだけれど、あれは空想の産物だし空を飛ぶための羽だったような・・・。

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 当時の愛車、VFR400Rのアッパーカウルとサイドカウルの繋ぎ目あたりから、短いウイングが真横に突き出している姿をイメージしてみた。なんと言うか、実にかっこわるい。それにコケたら確実に折れるだろう。周りのパーツまで巻き込んで派手に逝きそうだ。考えるだけで恐ろしい。修理代が幾らかかるか知れない。

 当時の僕は大学生だった。年がら年中金がなかったのは、真面目に勉学に勤しんでいる苦学生だったからではない。昼間はオートバイ、夕方からは部活動、そして夜は麻雀に精を出す不良学生だった。仕送りとアルバイト代のほとんどは、ガソリン代と修理代、麻雀の負け分の清算に消えていった。
 同じ大学のオートバイ好きを集めて、レーシングチームを結成していた。革ツナギの上に揃いのトレーナーを着て、講義はそっちのけで峠に通い、鈴鹿の4時間耐久レースに憧れ、バリマシの俺ハで赤ゼッケンを取ることが目標で、ノリックとバリバリ伝説にかぶれていた。

「アホやな、おまえ」
 それまで黙って耳を傾けていたS君が、ほとほと度しがたいといった顔つきで言った。
「なんでバイクにはウイングがついてないか、そらつけても無駄やからや。ちょっと考えたらわかることやんけ。どこのメーカーもやってないってことは、やっても意味がないってことや」
 頷けるような頷けないような。しかし確かに道理ではある。
「直線だけやったらええけど、問題はコーナーや。バイクを寝かせているときは、イン側とアウト側では全然違う風が流れてんねんで。要するに下から上へ押し戻す力と、上から下へねじ伏せる力のバランスがとれとんねん。そんなとこにウイングなんかつけてみ、気流が乱れてコーナリングが不安定になるだけやで」
 突き放すように言い切ると、どうだ参ったかと言わんばかりに小鼻をうごめかせた。

 身振り手振りを交えながら講釈を垂れる彼は、理系の大学で流体力学を学ぶ学生などではない。僕らと同じど田舎のFランク大学生だ。誰も反論できなかったのは、もっともらしい理屈に納得したからではなく、説を覆すほどの知識を持ち合わせていないせいだ。加えて、僕らのチームでは唯一の限定解除ライダーであり、彼の駆るSRX-6が近隣の峠では最速と目されていたからでもある。既に一滑一留(いちスベいちダブ)のチーム最年長で、僕に輪をかけて金がなく、看護婦フェチのAVマニアで素人童貞で、口ばかり達者な捻くれ者だったけれど、コーナーを攻めている時のキチガイじみた速さだけは誰もが認めていた。他県ナンバーのRX-7を崖の下に追い落とした逸話が、十割増しでまことしやかに囁かれていた。外の世界ではまったく通用しないけれど、少なくとも僕らの間では、オートバイを速く走らせることができる者が一番偉かったのだ。

 その場には他にNSR250RのN君と、RGV250Γのガンちゃんもいたはずだけれど、彼らがなんと言ったかは記憶にない。その後もひとしきり議論は続いて、しりつぼみ気味に途切れた。算数が苦手という理由で私立文系を選んだバカ学生達には、どんなに頭を捻ったところで納得のいく答など見つからなかった。「どこのメーカーもやっていないということは、やっても意味がないということだ」という穿った理屈だけが、なにやら金言のごとく刷り込まれた。
 ちなみにその数日後、TZR250のシングルシートカウルには、できそこないの鳥居のような形をしたリアウイングが取り付けられていた。得意満面のT君を前に、誰もが「そっちかよ」とつっこんだ。アルミで作った羽は確かに目立ったけれど、走っている最中に根元からもげて、どこかに飛んでいったっきり2度と見つからなかった。
 

Commented by akane8150 at 2015-03-17 17:01
バイク好きの集い「空」 に参加して こちらへ立ち寄りました。書き物が面白くって、更新を楽しみにしています。
Commented by TigerSteamer at 2015-03-18 01:31
ありがとうございます。励みになります。
ところで質問なんですが、MT-01のビキニカウルの横についているマークは何ですか?
ワイルドセブンのエンブレムではなさそうです。似てるけど。
http://wild7.jp/wp-content/uploads/2008/07/wild_k3.jpg
Commented by akane8150 at 2015-03-18 22:42
MT-01の開発コンセプトが「ソウルビートVツインスポーツ」だったので、「V」をデザインしたイメージエンブレムです。その後MT-03 -07 -09とMTシリーズが作られますが、いずれにもエンブレムとして使われてます。このあたりは、ワイルドセブンというより「サイボーグ009」を連想しますね(^^)。ちなみにMTとは「マッスルトルク」の意味だそうです。
これからも面白い記事を期待します。
Commented by TigerSteamer at 2015-03-20 14:52
なるほど、MT-01本来のエンブレムなんですね。僕はてっきり社外パーツメーカーのものか、あるいはオリジナルデザインなのかと・・・。
しかしカッコイイですな、MT-01。サイボーグに当嵌めると001。つまりは、たまにしか目の覚めないかわりに、やたらとハイスペックな赤ん坊になってしまうわけです。マッスルバイクとおしゃぶりを咥えた赤ん坊の取り合わせはミスマッチのようにも思えますが、趣味性の高いオートバイなので、むしろ合っているのかも。001同様に普段はガレージで眠りこけていて、出動は月1だったりして・・・いやすんません、ディスるつもりは全然ないのです。
by TigerSteamer | 2015-03-15 00:00 | オートバイ | Comments(4)