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行きて帰りし物語

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<前回 死神ライダーを参照のこと>

 これにて”隠れ家の探索”3部作は最後になる。前回は図らずも起承転結の転にふさわしい、あっと驚くトホホな幕引きとなったわけだけれども、実は本編ではカットされた最終章の導入部分も用意されていた。

 僕が、ゆふそらの駐車場にオートバイを乗り入れた時、お店の前には真っ赤な4WDが停まっていて、ちょうど女性が2人降りてくるところだった。僕の姿を認めると、1人は店の入り口へと続く斜面を駆け上がって行き、もう1人は車の傍に残った。
 落ち葉を踏む足音以外は、物音一つしない。静寂に包まれた喬木の森と北欧風の建物、その前に佇む若い女性。どことなく現実離れしていて、童話の世界に紛れ込んだような気がした。このシチュエーションだと、僕の役どころは何だろう。一夜の宿を求める旅人だろうか。
「ひょっとして、今日はお休みですかね」
「ごめんなさい、金曜日から月曜日までが営業日なんです」
 女性は強張った笑顔を浮かべ、申し訳なさげに頭を下げた。
 その日は火曜日だった。薄暮が閉店していたショックが尾を引いているせいか、自分でも驚くくらいあっさりと諦めがついた。運が悪い時はこんなものだ。例によって事前に調べておかなかった自分が悪い。僕のツーリングには、よくあることだ。
 連れの女性が、こちらへ駆け下りてくるのが見えた。2人並んで立つと、とてもよく似ているのがわかる。姉妹なのかと思ったけれど、少し歳が離れているような気もする。母娘かもしれない。
「よかったらこれ・・・」
 娘さんと思しき女性は、手にした2つの小さな包みを僕に差し出した。

 ピンときた。エルフの焼き菓子だ。
 トールキンの『指輪物語』で、エルフの郷ロスローリエンの女主人であるガラドリエルが、旅の仲間に餞別を渡すシーンに違いない。ということは、娘さんがアルウェン(娘じゃなくて孫だっけ)で、僕がアラゴルン・・・は美化しすぎだ。ちょっと悔しいけれど適役はドワーフのギムリ(実際はオーク)あたりかもしれない。ずんぐりむっくりな体型もぴったりだし、間違っても後に夫婦になったりはしないだろうし。ただ残念ながらドワーフは馬には乗れないけれど。
「またお待ちしています」
 次の休みは紅葉見物をしに耶馬渓方面へ行くつもりだった。九州の秋は短い。のんびり構えていると見頃を逃してしまう。それでも、もう一回だけ。バックミラーで2人の姿を確認しながら、もう一度だけ足を運んでみよう思った。ラスクのお礼を言わなくてはならない。




 ガレットという料理を初めて食べた。蕎麦粉をクレープのような平たい生地にして、チーズやハムなどを包んで焼いたブルゴーニュ地方の郷土料理だそうだ。僕も世のオヤジどもの例に漏れず、このての婦女子が好みそうな食べ物をハナから馬鹿にしてかかる習性がある。きっとギムリも同意見に違いない。しかし、食わず嫌いだったと気付かされた。見た目よりもボリュームがあるし、とてもユニークで、食べていて楽しい。もっとチーズが山のように盛ってあって、コッテリした味付けだとなお良いような気もするけれど、生地が薄いから食べにくくなるだろう。品が悪くなるのも確かだ。ピザのようにクルクルっと巻いて、端からかぶりつこうと試みて失敗した。ここは上品に、ナイフとフォークで切り分けるのが無難だ。ジャムやマーマレードなどを塗って焼き菓子にすることもあるらしいけれど、残念ながら、ゆふそらのメニューには載っていなかった。
 お土産にラスクを買った。美味しいのは前回の訪問で確認済みだ。ラスクをお勧めできる店というのは珍しいかもしれない。パン屋のレジ横に並んでいる、小銭消費用のオマケ商品ではない。カリカリして香ばしいくせに、しっとりもしている。木の実が練りこんであるせいだ。そして、しっかりと甘い。

 勘定を済ませて店を出た時、デザートを食べ忘れたことに気付いた。垂れ目嬢はなんと言うだろう。笑って許してくれるだろうか。どうもそんな気はしない。食べに戻ろうかと踵を返したところで、思い直した。ガレットのバリエーションも全部試していないし、パンも手つかずだ。それに、せっかく見つけた隠れ家を無駄にするのはもったいない。3部作で終わりだと思っていた物語に、続きがあるケースもないわけではない。『ゲド戦記』の4巻が出たときは誰もが驚いた。
 時期的にオートバイで行くのは、もう難しいかもしれない。よって、次回「デザートの冒険」は来春あたりを予定している。ガラドリエル様にお会いできる日が待ち遠しい。
 
店舗情報
ゆふそら
大分県由布市湯布院町川西字山口1750ー136

Commented by まこしゃん♪ at 2014-12-22 23:50 x
私もガラドリエル様に会いに行かなきゃね。
でも、このブログで行った気分になっちゃった(≧∇≦)
Commented by TigerSteamer at 2014-12-23 15:09
ダメです。ちゃんと行ってデザート食ってきてください。
Commented by 湾の森のトリ at 2015-04-05 20:35 x
はじめまして。
ひょんなことからたどりつきました。
ちょうど、行ったばかりのゆふそらと、好きだった薄暮らしき写真があったので、読んでいたら……笑い苦しみながら三部読みました……薄暮が閉店したのを知って、SHOCK!!! 春になっても鎖が解かれないし、なんだか建物が生き生きしているように見えないと思ってたんです。5,6年前、ドライブ中に見つけて、キツネにだまされたような気分で行ってみたお店でした。
ゆふそらもまた、とってもいいところですよね。わたしも4回くらい行ったけど、胃袋の都合でスイーツ体験はまだなんです。四部作目の発表を心待ちにしております。
Commented by TigerSteamer at 2015-04-06 00:39
これはこれは、ようこそいらっしゃいました。
そろそろ、ガラドリエル様に会いに行かなくてはと思いつつ、暇がなくて行けずじまいでおりました。都合がつき次第、行ってレポートしたいと思います。トリさんも、おすすめの湯布院スポットがあったら教えてください。

それと、薄暮は申し訳ないことをしました。あそこが閉店したのは僕のせいです。いや、たぶん。
Commented by 湾の森のトリ at 2015-04-06 22:52 x
ふたたび現れました。
返コメント、ありがとうございます♪

薄暮の閉店。気に入ってたものはそのうちなくなることが多いので(アーモンドポッキーとかアイスクリームの宝石箱とか)わたしのせいかと思ってましたが、違っていて安心しました。

もしコーヒーがお好きでしたら、行かねばならぬお店があります。珈琲木馬というお店。湯布院の塚原高原にあります。
ゆふそらを出発点に説明しますと、まず、森から大通りに出て、湯布院方面へずっと走ります。道の駅ゆふいんなんかも通り過ぎます。ジョイフル湯布院店を通り過ぎたらわりとすぐの信号で左折。自衛隊駐屯地前を通過して、そのまま道なりにくねくねと5分か10分かずーっと行ってると、左側に緑の建物が見えます。そこです。
お店が開くのは、基本的に金土日の午後です。だいたい13時くらいから17時くらいまでです。不定休だったり、開店時間が下がることもありますから、お気をつけください。でも、本気コーヒーですし、焼菓子類も本当においしいですから!!!!!!!お好みのコーヒーをご相談くださいませ。

また来ます。
Commented by TigerSteamer at 2015-04-10 23:19
お返事が遅れました。
ここのところブログが妙に重くて、更新もままならない状態でした。どうぞお許しください。珈琲木馬ですね。湯布院に行く時が来たら、忘れずに探します。貴重な情報をありがとうございました。タレ目にも行かせます。
コストを気にせず趣味に走った店というのは、高品質な反面、些細な理由ですぐに閉店してしまいます。生活がかかっていないからでしょうか。
Commented by TigerSteamer at 2015-04-10 23:38
先ほど、タレ目嬢に偵察させるべく連絡をしたところ、既に知っておりました。玉の湯?にもコーヒーを納入しているそうです。隣の「どんぐり」のマスターが大変な事情通だそうなので、いろいろ聞いてみるといいかもしれません。
by TigerSteamer | 2014-12-19 17:26 | ツーリング飯 | Comments(7)