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まだSSTRは終わらない ②

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 どんなものなのか想像がつかなかったわけではないけれど、正直なところを言えば、こいつは僕には荷が勝ちすぎるかなと思った。なにせ想像していた以上に塩っ辛い。親父殿の減塩食につきあって、すっかり薄味に慣れきった舌では味わうことすら難しい。お茶漬けをセレクトしたのには、そういう理由もあった。

 粗熱を冷まして少なめによそったご飯の上に、1cmの厚さにスライスしたフグの子糠漬け(フグの卵巣の糠漬け)をひと切れ、トースターで軽く炙ってから載せる。納豆は小粒を使う。糸が消えない程度によく練ったものを、味付けはせずに、フグの子と混ざらないように配置する。お茶はグラグラ煮え立つような熱湯で薄めに淹れる。注ぐのはフグの子の上だ。塩気を洗い流すようにして、まんべんなく、ひたひたまで。皮は途中で除くとよい。すると丁度よい具合にハラリとほぐれる。箸をつける際は、まずは全体をかき混ぜてからだ。納豆の粘りがお茶に乗り移って、ふんわりとトロみを帯びる。付かず離れずくらいの距離感がいい。ジャバジャバ掻きこむと、普通に納豆を食べるのではわからなかった豆の風味と、フグの子のコクと塩気が口の中に広がる。ぬめりが落ちた豆の食感もいい。
 これが僕好みの調合、と言うほどのことでもないけれど、あれこれ試してみた結果だ。他のものならやらないセオリー違反を、あえていくつか試している。納豆トッピングはこれが楽しい。

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 世の中には人の考えの及ばぬところで、たまたま生まれた食べ物、ないしは飲み物がある。有名どころではパンだ。もともとは小麦粉を捏ねただけの生地で硬い物しかなかったが、なんらかの理由で焼く前の生地に菌が取り付き、発酵して柔らかくなった。チーズは羊の乳をヤギの胃袋で作った容器で保存することにより、偶然にできたものらしい。茶葉をアジアからヨーロッパへ船で輸送する間に、船倉で発酵してしまったものが紅茶の起源だという説もある。
 フグの卵巣の糠漬けは、おそらくこれらと同様に、神様のいたずらによって生まれた食べ物ではないかと思っていた。たとえば先にフグの身を用いた糠漬けがあり、その製造過程で誤って卵巣が混入したと考えたらどうだろう。知らずに食べてしまって後で慌てたが、時間が経っても体調に変化はなかった。ここにフグの子糠漬けの起源がある。
 そんなことはありえないと断言する人もおられようけれど、僕くらいボンヤリした人間が作っていたと考えれば、過去の失敗から鑑みるに十分納得できる。

 ところが、1ヶ月近くに渡り実際に食べ続けてみて考えが変わった。このフグの子糠漬けからは、なんとしてでも食ってやろうという執念を感じる。数多の尊い人命を奪ってきたフグの卵巣を、痛めに痛めつけて、懲らしめてやろうという怨念にも似た負の感情がこめられている。人間様の沽券に関わる問題として、命をかけて取り組んだ人がいるに違いない。華岡青洲の妻ではないけれど、糠漬けという術を見出すまでに、何人か身内を殺していてもおかしくないくらいの使命感が宿っている。

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 僕も若くはないから、血圧のことを考えると大量に食べるわけにはいかない。せいぜい一日に一片だ。出勤前のただでさえ気忙しい時間帯に、たっぷりと余裕をもって、いつもより30分早く起きる。そして納豆を練る。毎朝1杯ずつフグの子納豆茶漬けを食べる生活は、単調な毎日に思いもかけぬ充実感をもたらした。優雅でのんびりした朝食は体にも良い。

 そんな楽しい時間も、あっという間に過ぎてしまった。千里浜から持ち帰ったフグの子糠漬けは3ブロック。そのうちの1つは、たびたびこのブログでもネタにしている髭面の強面氏に、お詫びの気持ちを込めて献上した。残り2ブロックもあれば十分だろうと思っていたけれど、結果から言えば足りなかった。この倍は買っておくべきだった。お茶漬けの試行錯誤に日数を費やしすぎて、予定していた他のメニューに活かせなかったのが大きい。物足りないくらいが丁度いいのはどの食べ物にも共通しているから、ここらで切り上げるのが吉かもしれないけれど。
 タッパーの底に残った最後の数片を、思い切ってフグの子納豆スパゲティにしてみた。茹で上がった麺を、刻んだニンニクと鷹の爪、ほぐしたフグの子と一緒にオリーブオイルで炒める。皿に盛ってから引き割り納豆を上に乗せ、刻み海苔を散らしてできあがり。画像が美味しそうに見えないのは、例によって撮影者の腕のせいだ。〆にするにはインパクトに欠けるけれど、安定していて実に美味かった。これにて僕のSSTR2014はおしまいだ。

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 食後の感想をブログに活かすべくPCに向かって、そこでハタと気が付いた。一番大切なことを忘れていた。画竜点睛を欠くとはこのことだ。
 まだSSTRは終わらない①で用意していた伏線を拾いそこなった。あと一品、最後の最後にオチとして試すつもりでいた。蜂蜜入り納豆からインスパイアされた隠し球、名付けて「炙りフグの子のハチミツ納豆ソースがけ」だ。こいつをワインのあてにして晩酌を楽しむつもりでいたのだ。
 惜しい。どうにも心残りだ。SWTR後記を「次回参加の予定はない」と締めくくったけれど、もう1回くらいはフグの子糠漬けを調達しがてら参加してみようと思う。次回は絶対に連休をとって、ここには書けなかった2日目のプログラムにも参加するつもりだ。そしてテーマはもちろん変わらない。

 前言を翻すようで気がひけますが、そんなわけですから、来年もまた千里浜でお会いしましょう。皆さん、その日までさようなら。
 

by TigerSteamer | 2014-06-20 00:05 | 食べ物一般 | Comments(0)

虎蒸気あらため河蒸気。オートバイとは無縁の生活を3年送りました。そろそろ復帰します。


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