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キャプテンへ

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 趣味は何だと問われると、オートバイツーリングと食べ歩き、と答える。ただし、この2つは僕にとって、ほとんど同じものだ。たまに第3の趣味ができるけれど、早ければ3日でリストから脱落するので、ブログのネタ以外では人前で公言したことはない。読書や映画鑑賞を挙げていたこともあったけれど、前者は生活と一体化しすぎているし、逆に後者は観たい作品がある時だけの付き合いだから、それらを趣味と言っていいものかどうか。

 3年ほど前までは、禁煙をリストに加えていた。真面目に答えているわけではない。斜に構えたジョークとしてだ。なにぶん自嘲気味なのでウケた試しがなかったけれど、趣味と言っても構わないくらい何度もチャレンジしてきたのは事実だ。朝に決意して夕方には挫ける程度の遊びから、飲み薬やパッチを用意して臨む計画的なものまで、数えきれないくらい挑戦し、そして失敗してきた。最後は3年前で、経験した禁煙の中では最長となる200日と少しを記録した。そして、それっきり趣味の欄から外した。
 3年前の今頃、Twitterのタイムライン上に気になるツイートを見つけたのがきっかけだった。思わずニヤリとした。なかなかヤニ臭いユーモアだ。

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 この竹田津敏信という人は、エイ(エイは木へんに世)出版から今も発行されている「ライダースクラブ」というオートバイ雑誌の、当時の編集長だった。当時の〜だった、という書き方をするからには、今では違うわけだ。僕はライダースクラブの読者ではないし、雑誌の編集者に興味をもったこともないので、どういう経緯でフォローするに至ったのか思い出せない。おそらくマン島TTレースに挑戦した日本人ライダーの伊丹孝裕氏を先にフォローしていて、その繋がりでだったように思う。
 僕との接点はまったくないので、人物について詳しく触れるのはやめておくけれど、ネットに散見する記事やTwitter上のやりとりから、名物編集長とでも呼ぶべき人物であることを知った。同じ業界人だけにとどまらず、友人知人に読者までをも巻き込んで、常に楽しげな人の輪の中心にいるのが容易に想像できた。ついでに、前出の伊丹氏を含めて僕と同い歳だった。その竹田津氏が禁煙をするというので、面白半分で便乗したわけだ。
 僕とは違って、本格的に禁煙するのは初めてのようだった。物書きという仕事の性質上(物書きじゃないのでわからないけれど、たぶん)、一度身につけた喫煙習慣を捨てるのは並大抵ではなかっただろう。ツイートには深刻さが窺える様子はまるでなくて、それがライバル心に火をつけた。禁断症状の苦しみを知る僕としては、やっかみが半分以上だったのは認める。

 一人でじっと我慢するより、仲間がいたほうが捗るというのは本当だった。それがたとえ縁もゆかりも無い他人だったとしても。いやむしろ、他人だったからかもしれない。ヒネ者気質の僕としては、身近なところにライバルを置かない方が良かったのかもしれない。

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 タイムライン上に表示された、このツイートを見た時は、一緒に快哉をあげたい気分だった。僕が禁煙を始めたのは数日遅れだったので、一緒にというのは正確ではないけれど、まもなく同じ日数をクリアするのは間違いなかった。もっと大騒ぎしても良さそうだけれど、禁煙200日目を告げるツイートは一言だけだった。少し肩透かしをくらったような気がした。ゴールなどないことを考えれば、それで当然なのだけれど。

 そして、それから一ヶ月も経たないうちに、竹田津氏は故人となった。新型オートバイを取材している最中の事故だったらしい。
 死を悼むという感じではなかったけれど、数日先を行く目標だったし、勝手に連帯意識を育んでいた相手だったので、いきなりの訃報はショックだった。肺癌の原因No.1であるタバコをやめてオートバイで命を落としたわけだから、皮肉めいたものを感じなかったと言えば嘘になる。ただ、僕の最後の禁煙が失敗したのは意志薄弱のせいであって、竹田津氏の死とは関係がない。どう取り繕っても嘘くさくなるけれど、本気でタバコを止める気はなかった。所詮は趣味だったのだ。

 今またタバコを止めようと思う。お金がもったいなくなったのが動機だ。なんだか今度は成功しそうな気がする。ついこないだダイエットをしくじっておきながら言うことじゃないけれど、ブログ用のネタではない証に、独りよがりになるのを承知で故人を引き合いに出してみた。どこかで見ていてくれよ。
 

by tigersteamer | 2013-09-25 04:39 | 雑記 | Comments(0)