グランブルー

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作品名蒼い靴ヒモ
監督名虎蒸気
評価(星5つ)
 いよいよヤバいのである、腹部が。

 床に座り込んだ状態では、お腹がつっかえて靴下が履けないのだ。椅子に座り、足を組んだ状態でゆっくりと履くか、あるいは、苦しいのを我慢して素早く履くか、二つに一つだ。後者の場合、輪っか状に束ねた靴下に両手の親指を通し、えいやっとばかりに上体を屈曲させて爪先に引っ掛け、一気に引き上げる。腹部が大腿部で圧迫されるので、一瞬ではあるが呼吸が止まる。
 靴下ならまだいいが、これが靴紐ならばさらに大変だ。誰も見ていない自宅の玄関ならまだしも、人前での着用を余儀なくされる時など、フリーダイビング並みの運動を強いられる。
 長時間、腹部を圧迫する体勢をとるため、息を止めている時間も長くなる。何回かに分けてやればいいことには違いないが、靴紐一つ(両足だから二つ)結ぶのに、赤い顔をして何度も息継ぎをする姿など、あまりに無様で到底よそ様に見せられるものではない。

 よって、一連の作業は一気に行う。周囲に悟られぬように、事前に俯いてハイパーベンチレーションを行い、自らを過呼吸状態に追い込む。言わずもがな、酸素欠乏症における苦痛を麻痺させるためだ。細かい作業を効率よく行う為には、イメージトレーニングが欠かせない。指先の筋肉を入念に解しておくことも必要だ。
 潜水後の作業は、主に正確性を競う。早ければいいというものではない。あらかじめ設定したペース配分に沿って、あくまで自然な速度で作業を行う。蝶々結びの羽の部分を整えたり、左右の紐の長さを見比べるくらいのオカズを足せれば、なお良い。ただし、加点目的で作業工程を長くすることには、リスクが伴う。紐の長さが違ったからといって、結びなおす余裕はないからだ。
 そしてミッションをクリアしたら、速やかに海面へ浮上する。この時に、苦悶の表情を浮かべてはいけない。不必要な水しぶきをあげてもいけない。顎を引いて靴の先を見つめながら、涼しげに微笑まなくてはならない。一連の作業を自然に行うことに集中するあまり、気がついたら鼻水がベロンと垂れていた、などということがあれば、間違いなく失格は免れない。呼吸は鼻からゆっくりと、早鐘のような心臓の鼓動すらコントロールし、さらには顔面の紅潮も抑えなくてはならない。

 靴紐結びは、技術はもとより作業の正確性と持久力、芸術点までもが評価を左右する過酷なスポーツだ。故に、あまねくすべてのデブは、常に自分がアスリートであることを意識しなくてはならない。
 気分はジャック・マイヨール、イルカは友達。愛妻は日本人。願わくば、靴紐を握りしめて、酸欠で死にたい。

息を止めて靴紐を結んでいると、いつの間にか苦しくなくなって、このままいつまでも蝶々結びと戯れていたいと思うことがある。Tiger Steamer 1972-

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by tigersteamer | 2011-06-02 13:35 | 雑記 | Comments(0)

虎蒸気あらため河蒸気。オートバイとは無縁の生活を3年送りました。そろそろ復帰します。


by 河蒸気