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CB750F 〜 孤独のバイク

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 ついさっき、バイク7の駐車場にて。
 たった1台停まっていたオートバイ、その懐かしいテールランプに目を奪われた。ホンダのCB750Fだ。僕の初大型は、このオートバイだった。今から20年くらい前のことだ。免許は取ったものの中古車を買うほどの金もなくて、お世話になっていたバイク屋の主から格安で譲ってもらった。見た目はボルドール2で中身はFZという、出処の知れない代物だった。

 名車であることは知っていたけれど、特にそれが欲しかったというわけではない。タダ同然の値段で譲ってくれたバイク屋の主人にしたところで、実際のところは態の良い在庫整理だったのかもしれない。しかし、僕がCBで走った距離は、他のどのオートバイよりも長い。どこへ行くにも一緒だった。当時の僕にとっては唯一の財産だったのだ。
 命の次くらいに大切にしていたけれど、最後は盗難にあって、あっさりと片付いた。盗まれてから数日のち、警察から連絡を受けて引き取りに行った時には、見るも無残な姿に変わり果てていた。何メートルもブレーキ痕が残る衝突事故の現場に乗り捨ててあったのだそうだ。五体満足であるとは考えにくいほどの事故だったにも関わらず、犯人は捕まらなかった。修理する金がなくて泣く泣く廃車にしたけれど、その一件がなければ、今でも僕はナナエフ乗りだったかもしれない。

 見た目はFBだけれど、中身はFCなのだそうだ。他にも、ささやかなカスタムが施されているのだろう。僕のFZは、20年前の当時ですらメーカー欠品だらけだった。人気車種とはいえ、パーツの供給はできるのだろうか。「旧車に強いバイク屋があって、色々と頑張ってくれるんです」 オーナーの青年はそう言って誇らしげに、そして少し照れ臭そうに笑った。
 メーカー不詳のシンプルなジャケットにジーンズ、足元は履き込んだブーツ、ベルトに道具袋のようなポーチをぶら下げている。峠を攻めるスタイルでも、ツーリングに出かける装備でもない。人によっては、そんな彼の姿を、オートバイに乗る格好ではないと諌めるかもしれない。それくらい無防備で、自然だった。彼と言葉を交わした瞬間に、胸が締め付けられるような切なさを感じた。

 CB750F自体は珍しくない。かつては爆発的にヒットしたオートバイであり、中古市場に出回るタマ数は多い。名車の名に違わず、今でもこだわりを持って乗り続けているライダーがいる。
 自分がかつて乗っていたから、というわけでもない。僕が惹かれたのは、ノーマルの良さを留めたオートバイと、傍に立つライダーを含めた佇まいだった。最新のネイキッドモデルに比べると、地味で野暮ったく感じられるほど飾りげのない(発売当時は斬新なデザインだったのだろうけれど)空冷のオートバイは、同じく素直で自然体のライダーをもって完成していた。時代遅れではあるけれどクラシックと呼ぶにはそぐわない、とくべつ速そうでもないしカッコ良くもないオートバイと、若いライダーの組み合わせ。この感じ、上手く伝わるだろうか。
 20年前、同じくこのオートバイに跨っていた僕も、他人の目には眩しく映っていたのだろうか。CB乗りってのは、こうじゃなきゃな。胸の内で呟いた。

 言っておきたい。CB乗りってのはね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか、ありのままでなきゃあダメなんだ。孤独で、シンプルで、ストイックで・・・。ついでに言うと、てんで女の子にはモテなくて、シャイで人見知りで引っ込み思案で、お洒落とは縁がなくて、万年金欠で、ツキもなくて、悪い方のヒキだけは強くて・・・でも、オートバイに乗っていれば満足で、どこまでだって行けると信じている。
 そう、僕のイメージするCB乗りとは、かつての自分に他ならない。そして僕は未だにCB乗りでもある。乗っているオートバイは違っても、心だけは。グシャグシャになったCB750Fの鍵を、20年経った今も捨てられずにいるくらいに。

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by tigersteamer | 2013-08-22 13:36 | オートバイ | Comments(0)