2013年 07月 18日
絶滅危惧種 "おやじライダー"
不躾に、こんなことを言うのはどうかと思う。僕のヘソ曲がりをよく知る、このブログのリピーター(いるのか?)でさえ、思わずムカっときて衝動的にブラウザの×ボタンをクリックし、ついでにブックマークから当ブログを削除するかもしれない。しかし、あえてアクセス減を怖れずに言わせていただこう。
最近の"おやじライダー"はプライドがない。方向性を見誤っている。これは、おやじライダーの大部分をリターンライダーが占めていることと、まるで無関係ではなかろうと思う。
かつて、おやじライダーは夏の暑さにも冬の寒さにも負けない鋼の肉体と、豊富な経験の具現者であった。熟練のメカニックをしのぐ知識と技術で旅先でのマシントラブルに対応し、地図にすら載っていない抜け道を熟知し、風の向き雲の動きから天候を読み取り、本気で走れば地元の走り屋ですら尻尾を巻くテクニックを持っていた。
彼らは生え抜きであり、周りの者が四輪に乗り換え、様々な理由でオートバイを卒業していく中で、頑なに、この不安定で不完全な乗り物から降りようとしなかった、言わば生き残りでもあった。若者たちは、おやじライダーを見るたび、「邪魔なんだよオッサン」などと嘯きながら、同時に畏敬の念を感じずにはいられなかった。自分は果たして、あの歳になるまでオートバイ乗りでいられるだろうか。
それがどうだ。今や、おやじライダーは金にあかせて高級オートバイを乗り回し、高性能のガジェットに依存しきった無能者の代名詞である。メンテナンスはショップ任せで、パンク修理すら覚束ない。そのくせ、安全性にだけは敏感だ。アイスホッケーの選手かと見紛うばかりのプロテクターで全身を鎧い、その上ジャケットにはエアバッグが内蔵されている。グリップヒーターにシートウォーマー、果ては隈なく電熱ウエアを着込んでいたりする。行程はナビの言いなりだ。地図を開くことすら疎ましがる。そして彼らの多くは、それを誇らしく感じている。とても正気の沙汰とは思えない。
最近の技術の進歩は目覚しい。かつてビデオがラジオスターを殺したように、故障知らずの高性能オートバイが凄腕メカニックおやじを、高性能ライディング・ウェアが全天候型大陸横断おやじを、高性能バイクナビが人間ロードマップおやじを、今まさに滅亡の淵へ追いやろうとしている。
そして、とうとう行き着くところまできた感が漂う、HUD内蔵ヘルメットのお目見えだ。もし、白くて馬鹿でかいイカ釣り漁船そっくりのオートバイに跨ったタラバガニのような殻付きライダーが、このイイダコのオバケのようなヘルメットを被っていたとしたら・・・かつてオートバイ小僧だった僕は、きっとこう吐き捨てるだろう。
「なんだありゃ、半魚人か」
そうだ。その感性こそ正しい。自ら転がり続ける魂は、決して本質を見誤らない。しかし、今や醜く成長した似非おやじライダーは心の中で、こう付け加える。僅かばかりの強がりを皮肉に挿げ替えて。
「それって、お高いんでしょ?」
お幾らくらいになるもんでしょうね。耐衝撃性能はいかがでしょう。一回コケたら買い替えでは割にあわないと思うんですけど。目玉が飛び出るほど高いんじゃなければ、試してみてもよくってよ。
かく言う僕もオートバイナビの愛用者であり、最近では地図を開くことさえ稀だ。機械いじりはショップに丸投げ。トラブルこそがオートバイの最大の魅力だと捉えていたあの頃には、もう戻れないのだ。