僕は奴等が恐ろしい

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 春の交通安全週間も無事に終わった今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。麗らかな日差しに誘われて久方ぶりにオートバイにまたがり、あまりの気持ちの良さにアクセルも開け気味になって、ミラーに映らない角度から音もなく近付いてきた白馬の王子様から、ありがたくないお手紙を頂戴したりしておられませんでしょうか。

 我々オートバイ乗りは、世間一般の善良な市民よりも僅かばかり警察とお付き合いをする確率が高いわけですが、身近であるが故に軽視しがちであることも事実です。オートバイ乗りの困った習性として、スピード違反や白バイと鬼ごっこをした話を、自慢げに話す輩もいます。たしかに、最近の警察官は物腰も穏やかで、恐ろしさを感じることは少ないかもしれません。しかし、侮ってはいけません。僕が実際に垣間見た、警察官にまつわる体験談をすることで、僅かでも皆さんの注意を喚起できればと思う次第です。

 今回お話しするのは今から二十年ほど昔のことです。 当時、大学生だった僕はその日、同じ大学空手道部の一年生4名で車に乗り合わせ、演武会で使用する試割り用の瓦と白木のバットを購入するために、大阪にある武道専門店に出向いていました。
 一行は4人が4人とも地方出身者で、大阪に土地勘のある者はいませんでした。部活の先輩が書いた不細工な(その上、間違った)地図を頼りに、初めての土地で右往左往しながらの道行き。今のように便利なカーナビがあるわけでもなく、道路案内板を頼りにアッチでもないコッチでもないを繰り返しながら、ようやく目的地で買い物を済ませた頃には、すっかり日は傾いていました。そのまま、まっすぐ帰途に就けばよかったのですが、用事を済ませた一行は大学のある和歌山へ帰る前に、ちょっと寄り道をすることにしました。和歌山にも遊ぶ所はありますが、さすがに大阪とはスケールが違います。わざわざここまで来ておいて、黙って帰るのは勿体ないと思ったからです。

 普段は硬派を気取っていても、遊びたい盛りの若い男たちのことですから、足は自然と盛り場に向かいます。いい塩梅に日も暮れかけています。刻一刻と更けていく夜の空気が、否が応でも気分を盛り立てます。あわよくば女の子でもナンパして、と言ったところで、坊主頭でムサ苦しい男子学生の群れになど、オシャレな女子が振り向いてくれるはずもありません。それに「ナンパ橋」「アメ村」「ミナミ」やら「キタ」やらいう盛り場の断片的な知識はあれど、それがどこにあるのかすら知らないわけですから、辿り着くのも容易ではありません。ですが、その場の勢いとは恐ろしいもので、車に乗り合わせた誰もが、その後の楽しい時間を信じて微塵も疑いませんでした。

 そんな矢先、いきなり道の両側からガラの悪いオッサンの一群が走りでてきて、車の進路を塞いだのです。
 青天の霹靂、とっさにそんな言葉が浮かんだのは、オッサンらの風体があまりに異様だったからです。霹靂はカミナリを意味する言葉です。晴れているにも関わらず、なぜか全員が全員、折り畳み傘を手にしていました。そして皆、辛気臭さを絵にしたような、一見して胡散臭い風体でした。ドブネズミ色のハンチングにチョッキ、薄汚れたジャンパーは、とっさにノミ屋か手配師を連想させました。
「な、なんやお前ら」
 突然のハプニングに鼻白みながらも、かろうじて威勢を失わない体育会系空手道部の面々。喧嘩やったら買うたろうやないか。
 上ずった声で啖呵を切りつつ車のウインドウを下げるやいなや、倍倍倍返しの罵声が降りかかりました。
「やかましわボケ」
「車から降りんかい、いてまうぞアホンダラ」
「降りてトランク開けんかい。はよせえ」
 これが大阪名物パチパチパンチ・・・もとい、音に聞こえた関西ヤクザに違いありません。先ほどの威勢はどこへやら、わけがわからないまま、脅されるがままに車を降り、トランクを開ける友人。車の後部座席で縮こまる僕。空手をやっていようが、腕っ節に自信があろうが、人より上背があろうが、人差し指でリンゴに穴が穿てようが、そんなことは、いきなり降りかかる圧倒的な暴力の前では意味をなさないのです。
 トランクが開くガチャリという音の後、しばし流れる沈黙、不気味な停滞。そして一気に噴き出す土石流のごとき時間の奔流。怒号の渦。
「動くな、大人しうしとけ!」
「和歌山くんだりから、よう来たのう。死にたいんかワレ!」
「ケンキョやケンキョ!」
 ケンキョって、謙虚? どゆこと?
 その時になって初めて、オッサンらが手にしている折り畳み傘が、実は傘のカバーを被せて、簡単にカモフラージュした警棒であることに気が付いたのです。
 こ、この人たち、ひょっとして警察官? ケンキョって検挙?
 力ずくで車外に引きずり出され、地べたに押さえつけられ、手首には冷たい感触が。無実を叫ぼうにも、なんの咎で捕まったのかさえわからずに、ただ「すいませんでした」「勘弁してください」を連呼する僕ら。

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 その日、西成のあいりん地区で、日雇い労働者たちによる暴動が起きたのだと知らされたのは、散々小突きマワされて、ようやく容疑が晴れた深夜になってからでした。大阪府警のマル暴の刑事が、暴力団員から賄賂を貰ったことに端を発した暴動でした。
 フラフラと不審な挙動を繰り返しながら行きつ戻りつを繰り返す和歌山ナンバーの車を止めてみれば、乗っているのは揃いも揃って目つきの悪い坊主頭の集団。さらにトランクからは瓦とバットがゴロゴロ。ここにキナくさい臭いを感じない方がおかしい。タイミングの悪いマヌケ面の学生たちにとっては降って湧いたような災難でした。

 いかがだったでしょうか。前途のある青年の心に、決して消えないトラウマを焼き付けた一件でした。今でも僕は、警察官の制服を見るだけで避けて通りたい衝動にかられます。たしかに、マル暴と交通機動隊では取り締まる対象が違いますし、性質も違うのでしょう。しかし、警察は警察です。いつ何時、どんなきっかけで牙を剥くか知れたものではありません。どうぞ、ゆめゆめ油断されませんように。それでは皆さん、よいオートバイライフを・・・。
 

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by tigersteamer | 2013-05-06 22:27 | オートバイ | Comments(0)

虎蒸気あらため河蒸気。オートバイとは無縁の生活を3年送りました。そろそろ復帰します。


by 河蒸気