ダカールの雪辱

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 ツーリングはソロが殆どで、「オートバイは一人で乗るものだ」などと信条めいたことを言うくせに、実は仲間が欲しくてコッソリSNSに参加してみたりもする。そのくせ集団行動が苦手で人見知りが激しく、ミーティングやマスツーリングからは足が遠のくばかりだ。

 僕が通勤にセローを使っているのは、以前にも書いた通り。冬の早朝をオートバイで走るのは辛かろうと思われるかもしれないが、これが結構たのしい。計ったように同じタイミングで家を出るわけではないが、だいたい同じ時間に同じ道を通って勤務先へ行く。
 そのうちに馴染みができた。フルフェイスのヘルメットで頭部を覆い、一言も会話を交わすわけではないので、顔見知りというのとは違うかもしれない。身なりや体型から中年男性と予想はできるけれど、自分より上か下かまではわからない。赤の他人と言われれば、その通り。しかし、向こうがこちらを意識しているのはハッキリしている。僕も向こうを意識している。言わばライバルだ。

 シグナルグランプリという遊びをご存知だろうか。信号が青になると同時に飛び出して、次の赤信号までどちらが先に辿り着くかを競う。免許取りたての若者でもあるまいし、褒められた行為じゃないのは承知の上だが、そこで弾みをつけて職場に乗り込むと、仕事に対するモチベーションまで高まるような気がする。「やれやれ、また今日も…」といった倦怠感を感じずに済む。
 
 僕のセローは225cc、相手は200デューク、ともに単気筒で似たような排気量のエンジンを搭載している。ただし負け続きで、毎度背中ばかりを拝んでいる。だいたい3~5馬身ほど差がついて負ける。信号ひとつ分の先行を許すこともある。それもそのはずで、相手は今をときめくKTMの最新型モタード、対する僕は27年落ちのトレッキングバイクだ。スペックが違う。
 完敗続きのダカール・ラリーになぞらえて、雪辱を果たすべく奮闘しているけれど、どうにも分が悪い。たまにダイエットしようかな、などとも思う。

 そのデューク氏と、正月明けから半月に渡って、一度も会わなかった。仕事で使う荷物を運ばなくてはならず、トランスポーターとしての性能は皆無のオートバイから、一時的に四輪へ切り替えていたせいだ。

 その日、久々に隣り合わせたデューク氏は、いつもと何か様子が違うように感じた。スタート地点の信号で、あからさまに僕の方を見たりしていたし、発進加速でも差をつけられなかった。そして、こともあろうに、別れ際に手を上げて小さく挨拶をしてきたのだ。
 その日のゴールとなった信号は、普段僕が曲がる信号のだいぶん手前だったのだけれども(おそらく手心を加えたのだ、小癪な奴め)、僕は背中にむず痒さを憶えて、思わずスタートを遅らせてしまった。いつもはそのまま、付かず離れず追走しつつ流れ解散的に別れるのだけれど、その日は急速に小さくなるデューク氏の背中を見つめながら、なんとも表現しようのない感情を押し殺していた。

 とるにたらないことだが、いつもは競争するだけの相手が、こんな風に自分を認めてくれたことが嬉しかった。たぶん、この半月ほどの間、いつものように現れない僕を気にかけてくれていたのだろう。
 でもその反面、出勤前の聖なる儀式を穢されたような憤りも感じた。ヤマハとKTMという両雄の間に一切の馴れ合いは必要ないわけで、来年こそは打倒KTM、打倒シリル・デプレに燃えねばならないわけで、要するにものすごく照れくさかったのだ。

 そんなわけで、ここ暫くは、僕は5分ほど時間を遅らせて家を出ている。こっ恥ずかしいという、我ながらバカバカしい理由で。

後日談 イヤミ公爵と気の毒なカモシカの話
 

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Commented by SeRow at 2013-01-31 21:24 x
私も以前セローで通勤のときはクルマと競争で追い抜かれたり、高速道路ではいじめられたり、悔しい思いをしたものです。
そんな思いを10年間してきたので、タイガー1050では優越感??に浸れますが、
やっぱり非力なセローで頑張るのは、何ともいえない味わいがあります。
そうしてセローのいいところは「頑張らなくてもいい」ところですね。
スペックには表れないセロー(225)の深い味わいです。
Commented by TigerSteamer at 2013-02-15 01:02
コメントをありがとうございます。
勝手にリンクを張ってごめんなさい。セローの最大の武器であるスーパーローが仇となって、シグナルグランプリは負け続きです。スプロケ変えよっかな? と画策中ですが、通勤バイクに金をかけたくないのもあって、葛藤のさなかにあります。
by tigersteamer | 2013-01-30 13:11 | オートバイ | Comments(2)

虎蒸気あらため河蒸気。オートバイとは無縁の生活を3年送りました。そろそろ復帰します。


by 河蒸気