虎とカモシカ

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「セロー、いいですね」
 そう言われて、多分嬉しかったのだと思う。見るからにオンボロで、洗車もロクにしていない、滅多なことでは褒められることのないオートバイだから面食らった。
 店のマスターは五十の坂を越えたあたり、自身も古いモトグッツィに乗っているという。オートバイ好き同士だと、相手の車を褒めるところから挨拶が始まるのは普通だから、なんのことはない会話のきっかけ探しだったのかもしれない。それでも舞い上がった。あまり誰も口にしないけれど、僕のセローは実際に良いオートバイだからだ。

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 食後のコーヒーを啜りながら、ついさっき食べ終えたパスタの余韻に浸っていた。完全に不意打ちだったので、なんと答えようか考える間もなかった。なんとなく「いいですよ、セロー」と鸚鵡返しに応じて、「もしタイガーとセローのどちらか一台を選ばなくてはならないとしたら、たぶんタイガーを手放すでしょう」と付け足した。
 口にした後で、あら、これは違ったかな? と思った。間違ってとられたかもしれない。こちらとしては、至極当たり前のことだし、意味としては間違ってはいないのだけど、ここで言うには相応しくなかった。

 セローは通勤の足であり、チョイ乗り用であり、たまにはツーリングのお供にもする、日常生活には欠かせない存在になっている。それに対して、タイガーはもっぱら趣味の乗り物だ。一度走り出してしまえば苦にならないけれど、重ったるくて普段遣いの気安さはない。
 仮に(おそらく金銭的な事情で)どちらかを手放さなくてはならない事態に陥ったら、惜しみつつもタイガーを処分するでしょう。

 褒められて、それに対する返答としては相応しくなかったかもしれないけれど、では実用車であればセローでなくても構わないのかと問われれば、それもまた正しくない。

 セローはセロー、タイガーはタイガー、比較するようなものではないから、やはり不適切だった。一口にオートバイと言っても色々なので、個人的な価値観や思い入れを言葉にするのは難しいのです。
 

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by tigersteamer | 2013-01-22 02:47 | オートバイ | Comments(0)

虎蒸気あらため河蒸気。オートバイとは無縁の生活を3年送りました。そろそろ復帰します。


by 河蒸気