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ブーン ブーン ブーン

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抑揚のない出力特性にはTiger900で慣れていたけれど、R100はそれに輪をかけてひどい。2本出しのマフラーが奏でるのは味も素っ気もないツインの音。ジェントルと言えば聞こえはいいけれど、まさに走る機械といった乗り味に失望を隠せなかった。これがおっさんバイクってやつか。50ccのカブをそのまんま大きくしたようだ。最初のうちは、このオートバイのどこにライダーを惹きつけるだけの魅力があるのか不思議だった。ひょっとしたら、選択を誤ったのかもしれないという想いがチラリと脳裏をかすめたけれど、九死に一生を得た末の判断が間違いだとは認めたくなかった。それでも乗り続けていれば、いつかは愛着がわくのかもしれない。それだけが儚い希望だった。

たしか慣らし運転が終わってしばらくした頃だと思う。特に急ぐでもなく山道を流していて、ふと気付いた。何がきっかけだったのか、よく憶えていない。空の青さに気を取られて運転がおそろかになっていたのかもしれない。気がついたらハンドルに伝わる細かい振動が消えて、カチャカチャうるさかったエンジンがレシプロ機のような音をたてて回っていた。

ブーーーン
ブーーン
ブーーーーーン
気持ちいい。‬思わず溜息がもれた。その気持ち良さを逃さないようにシフトチェンジは控えめに、回転数を調節しながら走っていたら、いつの間にか結構なスピードが乗っていた。なめらかで、アスファルトに吸い付くようにして走る。タイヤの下に車体を押し上げる力を感じた。まるで2枚の翼で揚力を捉えて滑空する双翼機のようだ。伸びやかに加速し、アクセルの操作だけでするりと旋回する。おおげさな体重移動は必要ない。その代わりアグレッシブな感じはない。客観的に見れば速くはないのだろうけれど、それとは別の種類の爽快感だった。オートバイが走っている。僕が操っているのではなくて、オートバイが風に乗って走っている。

しかし惜しい。もう少し直線が長ければ、左コーナーからの立ち上がりで空に舞い上がれそうなのに。

by TigerSteamer | 2020-06-22 01:11 | オートバイ | Comments(0)