瞬間タイムマシン

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 先日、昼飯を食いに出たついでにコンビニで買ったアイス「恐竜の玉子」。
 あーこんなのあった。懐かしい。子供のころ好きだったなあ。昔は輪ゴムだったよね、それは羊羹でアイスは金具だったっけ? とかブツブツ言いながら、特殊な形態上仕方ないのであろうプラスチックの留め具を苦心惨憺しながら外して(留め具の反対側に穴を開けるんだっけ?)、飛び出した中身を慌てて舌で舐めとり、そのままチュウチュウ吸う。

 あまーい。

 たしかにユニークだし味も悪くはないけど、なんでこんな物が好きだったのか、子供心なんてわかんないものだ。
 そんなことをぼんやり考えながら、不用意に口を離した瞬間にそれは起こったのでした。
 瞬きする間もなく乳白色に閉ざされる視界。急速に蘇る幼いころの記憶。茫然自失することしばし。鼻の穴からたらりと垂れてくるに至って、ようやく我にかえりました。眼鏡にべったりこびりついたものをティッシュで拭いながらしみじみ

 たしかにこれは子供が好きになるわ。
 

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# by tigersteamer | 2010-08-20 09:13 | 食べ物一般

ハーレー・オーナーズ考

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 先日、ハーレーのウルトラ・クラシック・エレクトラ・グライドに乗っている知人から電話があった。変なバイクがあるから買わないか、とのこと。聞けばどうやら不動車らしい。元の持ち主は十数年ぶりのリターンライダーで、新車のハーレーを購入するにあたって、昔乗っていた古いオートバイを処分したいのだそうだ。もう乗らないし動かないから二束三文で構わないと言っているという。壊れたバイクを欲しがるほどの物好きでもその道の蒐集家でもないが、彼の言う「変なバイク」が妙に気にかかった。

 ハーレー乗りはハーレーにしか興味がない、というのは俺の偏見かもしれないが、実際のところ俺の周りにはハーレー、ないしクルーザータイプのオートバイにしか関心を寄せられないハーレー乗りが多い。
 以前、別の知人のつてでHOG(ハーレー・オーナーズ・グループ)の大規模なミーティングに参加したことがあった。初対面の者同士が集うマスツーリングのような場合、まずはお互いの愛車を褒めあうところからコミュニケーションが始まるものなのだけれど、革製品に身を包んだ100人近いアウトローの中にあって、徹頭徹尾、見事なまでに空気のような扱いだった。トライアンフで参加するのが間違いなのだけれど、どうやら紛れ込んだ異物としても認識されていなさそうで、心細いのを通り越してすがすがしくさえあった。
 電話をくれた彼などは、そのステレオタイプといってもいい。ハーレー的でない車種は一様に「変なバイク」の一言で片付ける。相手に対して失礼だとも思っていないらしい。そして、そのハーレー的でない車種の代表格が俺のタイガーだ。

 例によって「変なバイク」の一辺倒で、そのオートバイの名前すら控えていない相手から、根掘り葉掘り情報を引き出す。かろうじてホンダ製だというのは間違いがなさそうで、俺のバイクに似た形というからにはデュアルパーパスなのに違いない。山道にも入っていけそうな形らしい。排気量は不明、随分スリムだったから、たぶん単気筒じゃないかと思う、とのこと。加えてオーナーは大型免許を持っているので、中型や小型ではないに違いないのだそうだ。車格は小さめ(といってもウルトラグライドに比べて、だ)。かなり古い、納屋に置きっぱなしだったらしく、単に汚れているだけなのかもしれないが。
 その他、断片的かつ曖昧な情報を集約し収束させ、ようやく導き出した答えがこれ。NX650 ドミネーターで間違いなかろう。これを掘り出し物と考えて、手放しで喜んでよいものか迷う。スケールダウンモデルの125や250とは違い、650は輸出仕様のみの希少車だったはずだ。たしかに欲しいけれど、直すとなると相当なお金がかかるわけで、それは故障の程度にもよるけれど、パーツがないことは想像に難くない。なにはともあれ、現物を見ないことには話にならない。
 それに俺にはタイガーがある。用途を違えてタイプの異なるバイクをもう一台というならまだしも、同じタイプのオートバイを2台もつ事に意味はない。ただの道楽だ。いや、一台でも道楽には違いないのだから、そうとう行き過ぎた贅沢だ。俺のような低所得者がそんなことをしていると身を滅ぼしかねない。

 電話を切ったあとも、暫くは後ろ髪ひかれる思いだった。いっそ直して転売しようかとも考えたけれど、そこまで非道にはなれない。そもそも、俺の腕では直せる保障がない。あちこちこねくり回してバラバラにしたあげく、結局はショップまかせにして売値の相場を上回る修理代を払わされるのがオチだ。
 そんなこんなでクヨクヨしているうちに、彼からメールがきた。先方には既に連絡しているので、買う買わないは別にして、とりあえず現物を見に行こう、とのこと。いざ目の前にしたら衝動買いしてしまいそうな気がしないでもなかったけれど、思わずウンと返事をしてしまった。いま思い出しても悔やまれる。


 で、その現物がこれ(続き)
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# by TigerSteamer | 2010-07-16 20:14 | オートバイ

駐車場の誓い

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 一昨日の23時ごろ、場所は職場近くの書店の駐車場。福岡県地方は、その夜も雨だった。ぎっしりと車が詰まった状態のパーキングを、進行方向の矢印に沿ってグルグル巡回していた。空いたスペースを虎視眈々と狙う車が数台いて、僕もその中の一台だった。何度か獲物を逃したあとで、ようやく運が巡ってきた。前の車が出て行ったばかりの空間に、すばやくバックでねじ込んだ。店からは最も離れた一角だった。

 遠いといっても20メートルほどだ。雨の中を走ってもよかったのだけれど、店が本屋だけに濡れた客は好むまい。すばやく車外に出て、置き傘を取り出すべくトランクを開けた。その瞬間にそれはおこった。
 降りしきる雨の中、トランクに頭を突っ込んだ中腰の姿勢で、時が止まったような錯覚を覚えた。これまでに何度か経験したことのある痛み。しかし、こんな悲惨な状況での遭遇は初めてだ。

 ――ギックリ腰。

 とりあえず、とりあえず、本屋は諦めた。
 そのまま車の運転席に視線を巡らせた。たったの数メートルが絶望的な距離のように感じた。あそこまで辿りつけるだろうか。しかし、いくら書店から一番遠いといっても、当然人の目はあるわけで、こんな姿勢のままいつまでも立っておけるものではない。ましてやこの雨だ。
 少し足の向きを変えるだけで、鈍器で殴りつけるような痛みが全身を貫く。そろり、そろりと移動する、その間にも、雨は礫となって容赦なく僕の全身を打つ。1メートル移動するのに、ゆうに10分はかかっただろう。運転席に落ち着いた時には、日付はとっくに変わっていた。

 落ち着く、という表現は正確ではないかもしれない。人の目と雨を避けることができる場所に辿り着いたという意味であって、ひと心地つけたわけではないからだ。車の中に潜り込んだはいいものの、シートに腰を据えることはできなかった。痛みを避けながら身体を動かし続けた結果、運転席に下半身を置き、サイドブレーキを跨いで、助手席に手をつく形で、四つん這いの姿勢を余儀なくされた。当然ながら、顔は助手席のウインドウに押し付けている。革靴の爪先を取っ手に引っ掛けて、なんとかドアを閉めることができた。まるでヨガだ。何時間かかるかわからないが、この調子でジワジワと体勢を入れ替えて運転席に座り、自分で運転して帰るしかない。
 腰痛は職業病のようなものだ。しかし、まるで関係がないわけではない。常日頃の負担を軽減させることができれば、症状はずっとよくなるに違いない。僕はこの世に生を受けてから、何度となく誓った言葉を改めて呟いた。いや、今度こそ本気だ。本気の本気だ。

 あの日、左隣のスペースに止めた車の、運転席に座っていた女性を忘れない。肩まである長い髪の、若い娘だった。彼女は車から降りようとしてふと横を向き、2枚のガラス越しに苦悶の表情を浮かべる僕を見た。一瞬、目があった。彼女はぽかんとした表情で僕を見つめ、直後に絶叫した。「サイコ」のジャネット・リーを凌ぐ名演技だった。よほど恐ろしかったのだろう。そのまま後に倒れこみ、這うようにして助手席に移った。そして、恐る恐るといった風にこちらを向き、やがてオバケや変質者の類ではないと察したのだろう、急に恥ずかしげな表情を浮かべ、そして露骨な敵意を込めてキッと僕を睨み、その後は視線を動かすことなく前だけを見て車を発進させた。

 遠ざかるテールランプを眺めながら、自問自答を繰り返した。なんでこんな惨めな思いをしなくてはならないのか、わかってんだろ。痩せるんだ。健康になるんだ虎よ。もうそれしか道はないんだぜ。
 

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# by tigersteamer | 2010-07-01 13:59 | 雑記