<   2014年 12月 ( 10 )   > この月の画像一覧

意趣返し

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 カフェ・ド・パリのマスターからの厳命を帯び、書店で培倶人を探した。立ち読みではなく、必ず買うようにとの仰せだ。20代の頃はMr.バイクと、時々Goggleを購読していたけれど、いつの頃からか読まなくなった。オートバイ雑誌を買うのは数年ぶりだ。ひょっとしたら十数年ぶりかもしれない。

 この冬行きたいライダーズカフェというタイトルで特集が組んであった。ド・パリはライダーズカフェではなかったような・・・と思いつつページをめくった。
 大人の隠れリビングとは言ったものだ。意図して隠しているのだとは思えないけれど、確かに人目にはつきにくい。プロカメラマンのファインダーを通すと、見慣れた店内もどこか違って見えた。ただし、ムシリソースに限ってなら、僕の方が美味そうに撮れている自信がある。
 マスターらしい、なかなかお茶目なことが書いてあった。「本誌を見せればお代わりコーヒーを1杯サービス」してくれるんだそうだ。そもそも、コーヒーのお代わりで金を取られた覚えがない。黙っていても注いでくれる。いずれにしても、冬のツーリングライダーには、大変ありがたい気遣いだ。

 オートバイには大きな荷物を入れるスペースがない。もし、パニアケースやタンクバッグを持っていないなら、かさばる雑誌を鞄に入れて持って行く必要はない。モバイルでこのページを表示して、マスターに読ませるだけでいい。苦笑いしながら、空のカップをコーヒーで満たしてくれるだろう。
 

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by TigerSteamer | 2014-12-31 17:39 | 雑記

12月28日

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 営業は27日までだったらしい。閉めるのが早すぎるとは思う。新年は7日からだそうだから、よそに比べるとだいぶ遅い。ただ、この商売気のなさは嫌いではない。自分達のペースを守って、末長く店を続けて欲しい。
 来年こそは、このめぐり合わせの悪さをなんとかしたい。厄年はとうに明けているので、万事がスロースターターな僕とはいえ、そろそろ復調してもいいはずなのだ。

 目当ての物は手に入ったので良しとする。来年はいいことがありますように。

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by TigerSteamer | 2014-12-28 11:22 | ツーリング

クリスマスプレゼント

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 ヘプコ&ベッカーの5ヶ月、ウィルバースの10ヶ月に続く3つ目のドイツ製パーツだ(どうやらドイツ製品ではないらしい)。どうなることかと思ったけれど、思いのほか早くて1週間で到着した。僕からTigerへ贈るクリスマスプレゼントだ。ちなみに今までの経験を生かして、日本の代理店は通さずにアメリカ人から購入した。

 3〜4年ほど前から頭を悩ませていた症状に、発進時のエンストがある。なにせライダーが下手なものだから、最初のうちはあまり気にしていなかった。しかし、スパークプラグの寿命が異様に短いことや、最近はアイドリングまでもが安定しなくなってきたことも加わって、どうもおかしいと思い始めた。特に渋滞にはまっている時などが顕著で、夏に頻発する。なぜかガソリンの減り具合が影響しているような気もする。満タンだと症状が出ないのだ。色々と調べた結果、イグニッションコイルの劣化が原因ではないかという結果に落ち着いた。熱でコイルが膨張し、正常に火花が飛ばなくなるとのこと。本来は壊れるような部品ではないらしいのだけれど、ライダーの乗り方に左右されやすく、この年式のトライアンフに限っては特に脆弱なパーツであるらしい。僕のTiger900は、来年には二十歳の誕生日を迎える。そろそろ新品に戻してやる頃合ではないかと思ったのだ。
 
 聖なる夜に祈りを込めて、天にましますイエス様へ。世界が平和でありますと共に、Tigerのアイドリング不安定とエンストが改善されますように。僕の婆さまが長生きしますように。職員健診で悪いところが見つかりませんように。美味しいものを心置きなく食べられますように。宝くじが当たりますように。アーメン。

3/15 追記:おかげさまで、今のところ不具合は出ていません。ノロジー効果、たしかにあったようです。
 

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by TigerSteamer | 2014-12-26 08:17 | オートバイ

ソロツアラー 自分の説明書

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 先日、車の定期メンテナンスの為に、カーディーラーを訪れた時のことだ。退屈しのぎにショールームに備え付けてあるマガジンラックを漁っていたところ、こんな本を見つけた。
 Jamais Jamais著『血液型別 自分の説明書』そのB型。 懐かしい、流行ったのは10年くらい前だろうか。よくある血液型占いの一種なのだけれど、読んだ者が当てはまるかどうかに一喜一憂するのではなくて、相手に読ませて自分の性格をよく知ってもらうといった趣旨の内容だった。興味がないわけではないのだけれど、皆が騒いでいた当時は見向きもしなかった。とりあえず手は出さずにポーカーフェイスを押し通し、ブームが一過したのちにコッソリ試すのが僕の性だ(憶えていればだけれど)。ひょっとしたらそれもB型の特徴なのかもしれない。

 そういや、こんな本があったあった。ドキドキを押し殺し、表面上は冷静を装って、なにげなく感をアピールしながらページをめくる。誰も気にしてないのはわかっているけれど、念のためだ。血液型占いなんぞに興味がある器の小さい男だと思われるのは恥ずかしい。
 しかし、徐々に目が離せなくなり、気がつくと食い入るように文字を追っていた。

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◻︎ 根暗だ。
◻︎ 集団行動の中で1人だけフラフラ散歩したりする。
◻︎ 時には人生まで賭ける。

 お前、ひょっとして僕の友達かなんかか・・・と疑いたくなるくらい、身につまされることが書いてあった。たしかに根暗だ。根暗じゃないとソロツアラーなんか名乗れない。フラフラ散歩することも多い。それが高じて迷子になることがある。むしろ、迷子になったふりをして単独行動をとる確信犯だ。人生まで賭けるは大袈裟だけれど、後から賭かっている物の大きさに気付くことはある・・・負けっぱなしだけれど。

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◻︎ 気になると即行動。
◻︎ その時の行動力はすさまじい。
◻︎ だけど、興味ないとどーでもいい。
◻︎ 口べた。

 その通り! 世渡り下手で墓穴を掘ることの多い「思い立ったが吉日男」の理解者が、こんなところにいるとは思わなかった。名前をなんと読めばいいのかわからないけど、コイツとなら旨い酒が飲めそうな気がする。

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◻︎ でも1人が好き。
◻︎ でもさみしがり屋。
◻︎ 割と小心。
◻︎ 時には気分で小心をも乗り越える。

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◻︎ 人に全てを明かさないことを、こっそりと楽しむ。
◻︎ 突然、何かしでかす。
◻︎ 自分論がめじろおし。

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◻︎ 会話に主語がない。
◻︎ お金の使い方が、なんかどっか人と違う。
◻︎ 人の顔、名前、あんまり覚えてない。というか覚えない最初から。

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◻︎ 地図なくてもおおよそ分かってれば、まぁ辿りつける。カン? 方角は「あのへん」。
◻︎ でも知らぬ土地を1人で散策してると迷子になる。「あれ? どっちから来たっけ今?」。
◻︎ だって道なんか見てないし、自分ワールド全開だから。

 このへんで、ふと気がついた。B型の説明書とは書いてあるけれど、ソロツアラーの素養にも丸々当てはまるような気がする。僕がマスツーリングに馴染めなかった原因がすべて書き連ねてある。ということは、ソロ志向のツーリングライダーは全員B型なのではないだろうか。たとえば僕の憧れてやまない仙人だ。血液型を尋ねたことはないけれど、あの人なんかはまさしくB型の典型だ。間違いない。すべてのB型ツーリングライダーは、ソロツアラーになるべくしてなるのに違いない。
 そう思うと、矢も楯もたまらなかった。携帯電話を取り出すと、住所録を呼び出して仙人の名前をフリックした。特に理由はないのだけれど、一刻も早く確認しなければならないと思った。
 幸いにも(?)電話はすぐに繋がった。

「もしもし・・・虎くんか、なんかよう?」
「あのですね、あの、えっと」
「今忙しいんだけど」
「すぐに済みますから。血液型、何型ですか?」
「なんで?」
「いや、別になんでってこともないんですけど」
「・・・・・・」
「・・・だめ、ですか」
「ABだよ」
「やっぱり? あっ、えっ、ええええ・・・嘘でしょう?」
「ブツッ ツーッ ツーッ ツーッ

 てっきり僕の同類だと思っていたのに、なんだか信じていた人に裏切られたような気がした。僕の中の仙人に対する感情、信頼とか、尊敬とか、同情とか、憐愍とか、ありとあらゆるものが、潮が引くように薄れていくのがわかった。
 ついでに、『AB型 自分の説明書』を手にとって、パラパラとめくってみた。

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◻︎ つかみどころがない。つかめないよ誰にも。
◻︎ だって自分でもつかめないから。
◻︎ あえてアピールもしない。めんどーだし。
◻︎ どうせ分かってくんないモン。

 そう言われれば、確かにそうかもしれない。しかし、もはやどうでもいい。しょせん彼はソロツアラーではなかったのだ。

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by TigerSteamer | 2014-12-23 20:56 |

蛮勇の報い

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 写真なんか撮ってる場合じゃなかった。まだなんとかなりそうな気がしないではないけれど、腰痛持ちに無理は禁物だ。諦めてロードサービスを呼びます。みんなありがとう。さようなら。往路は平気だったのに、たった2〜3時間の降雪で、辺り一面が雪景色に変わってしまった。冬の三瀬は恐ろしい。
 

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by TigerSteamer | 2014-12-21 16:20 | ツーリング

行きて帰りし物語

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<前回 死神ライダーを参照のこと>

 これにて”隠れ家の探索”3部作は最後になる。前回は図らずも起承転結の転にふさわしい、あっと驚くトホホな幕引きとなったわけだけれども、実は本編ではカットされた最終章の導入部分も用意されていた。

 僕が、ゆふそらの駐車場にオートバイを乗り入れた時、お店の前には真っ赤な4WDが停まっていて、ちょうど女性が2人降りてくるところだった。僕の姿を認めると、1人は店の入り口へと続く斜面を駆け上がって行き、もう1人は車の傍に残った。
 落ち葉を踏む足音以外は、物音一つしない。静寂に包まれた喬木の森と北欧風の建物、その前に佇む若い女性。どことなく現実離れしていて、童話の世界に紛れ込んだような気がした。このシチュエーションだと、僕の役どころは何だろう。一夜の宿を求める旅人だろうか。
「ひょっとして、今日はお休みですかね」
「ごめんなさい、金曜日から月曜日までが営業日なんです」
 女性は強張った笑顔を浮かべ、申し訳なさげに頭を下げた。
 その日は火曜日だった。薄暮が閉店していたショックが尾を引いているせいか、自分でも驚くくらいあっさりと諦めがついた。運が悪い時はこんなものだ。例によって事前に調べておかなかった自分が悪い。僕のツーリングには、よくあることだ。
 連れの女性が、こちらへ駆け下りてくるのが見えた。2人並んで立つと、とてもよく似ているのがわかる。姉妹なのかと思ったけれど、少し歳が離れているような気もする。母娘かもしれない。
「よかったらこれ・・・」
 娘さんと思しき女性は、手にした2つの小さな包みを僕に差し出した。

 ピンときた。エルフの焼き菓子だ。
 トールキンの『指輪物語』で、エルフの郷ロスローリエンの女主人であるガラドリエルが、旅の仲間に餞別を渡すシーンに違いない。ということは、娘さんがアルウェン(娘じゃなくて孫だっけ)で、僕がアラゴルン・・・は美化しすぎだ。ちょっと悔しいけれど適役はドワーフのギムリ(実際はオーク)あたりかもしれない。ずんぐりむっくりな体型もぴったりだし、間違っても後に夫婦になったりはしないだろうし。ただ残念ながらドワーフは馬には乗れないけれど。
「またお待ちしています」
 次の休みは紅葉見物をしに耶馬渓方面へ行くつもりだった。九州の秋は短い。のんびり構えていると見頃を逃してしまう。それでも、もう一回だけ。バックミラーで2人の姿を確認しながら、もう一度だけ足を運んでみよう思った。ラスクのお礼を言わなくてはならない。




 ガレットという料理を初めて食べた。蕎麦粉をクレープのような平たい生地にして、チーズやハムなどを包んで焼いたブルゴーニュ地方の郷土料理だそうだ。僕も世のオヤジどもの例に漏れず、このての婦女子が好みそうな食べ物をハナから馬鹿にしてかかる習性がある。きっとギムリも同意見に違いない。しかし、食わず嫌いだったと気付かされた。見た目よりもボリュームがあるし、とてもユニークで、食べていて楽しい。もっとチーズが山のように盛ってあって、コッテリした味付けだとなお良いような気もするけれど、生地が薄いから食べにくくなるだろう。品が悪くなるのも確かだ。ピザのようにクルクルっと巻いて、端からかぶりつこうと試みて失敗した。ここは上品に、ナイフとフォークで切り分けるのが無難だ。ジャムやマーマレードなどを塗って焼き菓子にすることもあるらしいけれど、残念ながら、ゆふそらのメニューには載っていなかった。
 お土産にラスクを買った。美味しいのは前回の訪問で確認済みだ。ラスクをお勧めできる店というのは珍しいかもしれない。パン屋のレジ横に並んでいる、小銭消費用のオマケ商品ではない。カリカリして香ばしいくせに、しっとりもしている。木の実が練りこんであるせいだ。そして、しっかりと甘い。

 勘定を済ませて店を出た時、デザートを食べ忘れたことに気付いた。垂れ目嬢はなんと言うだろう。笑って許してくれるだろうか。どうもそんな気はしない。食べに戻ろうかと踵を返したところで、思い直した。ガレットのバリエーションも全部試していないし、パンも手つかずだ。それに、せっかく見つけた隠れ家を無駄にするのはもったいない。3部作で終わりだと思っていた物語に、続きがあるケースもないわけではない。『ゲド戦記』の4巻が出たときは誰もが驚いた。
 時期的にオートバイで行くのは、もう難しいかもしれない。よって、次回「デザートの冒険」は来春あたりを予定している。ガラドリエル様にお会いできる日が待ち遠しい。
 
店舗情報
ゆふそら
大分県由布市湯布院町川西字山口1750ー136

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by TigerSteamer | 2014-12-19 17:26 | ツーリング飯

三瀬峠の呼び声

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 職場で書類仕事に精を出しながら、女性職員の井戸端会議を聞くとはなしに聞いていたら、三瀬峠のことが話題に上っていた。とっ散らかりがちになる会話を纏めて要点だけを抜き出すと、こういうことらしい。屋根に花壇のある店があって、そこのパンがとても美味しい。天然酵母を使用しているらしい。他にはピザなどの軽食が揃っており、買ったものは店内で食べることができる。お店は設計からすべて手作りで、とても味がある。優しそうな奥さんとは対照的に、店主はホームレスのようで一見とっつきにくいが、実はとても親切で人好きのする人物だ。
 右に左に蛇行する話を追いかけるうちに、仕事の方はすっかりお留守になっていた。どっと疲れた。

 普段なら気にも留めないのだけれど、三瀬峠とあっては聞き流すこともできない。あそこらへん一帯はオートバイで散々走り回ったけれど、そんな店があることは露ほども知らなかった。もっとも、ここ1年ほどは御無沙汰していたから、ひょっとすると新しくできたのかもしれない。屋根の上に花壇があるというのも想像しにくい。先日亡くなった作家の赤瀬川原平氏は、自宅の屋根にニラを植えていたそうだ。うろ覚えだけれど、新聞か何かで写真を見たことがある。瓦の間にビッチリと繁殖したペンペン草をイメージしかけて、慌てて頭の中から追い払った。女どもが騒ぐからには、そんな地味な見た目ではないはずだ。色とりどりの花が咲き乱れ、チョウチョが舞い飛んでいるに違いない。
 幸いにも、次の日曜日は何も予定が入っていなかった。ここ数日の冷え込みから考えて、早晩にも道路が凍結することは目に見えていた。ツーリングがてら探しに行くなら今しかない。

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 ひと口に三瀬と言っても馬鹿にできない広さがある。屋根の上に花壇があること以外、店の名前すらわからないわけだ。てっきり難航すると思っていたのだけれど、拍子抜けするほどあっさり見つかった。名を「屋根に花壇のある店」という。そのまんまだ。佐賀市三瀬村と聞いていたけれど、正確には限りなく佐賀に近い福岡市内だった。おまけに、ここには何度か来たことがあった。なぜ記憶に残らなかったのかといえば、いつも閉まっていたからだ。土日のみの営業らしい。今年の春に配置換えがあるまで、業務の内容から日曜日に休みが貰えなかった。僕の場合、お店の印象は食べた物と直結しているから、うまくタグ付けができていなかったのだ。

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 時節柄、花壇というよりは手入れを怠った芝生のようだった。曇天とあいまって寒々しい印象を受けたものの、店内は薪ストーブが燃え盛っていて、自然志向を基調としたログハウス風の造りが、目にも体にも心地良かった。店主は山小屋の主人といった雰囲気の優しげな男性で、ホームレスに例えた同僚の無礼を心の中で詫びた。ただし、パンもピザも話どおりの美味しさだったから、店主の代わりに許してやることにした。なんにせよ、お気に入りの店が一軒増えたことだけは間違いない。

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 木造りの椅子に根を生やしてしまいそうな尻を、気合いとともに引き剥がして店を後にした。吐く息が白い。せいぜい10分かそこらの滞在時間だったから、気温は来た時と大して変わりないのだけれど、温かいピザとコーヒーが奇妙な里心を植え付けてしまい、なかなかに去り難かった。オーナー夫婦の息子になったような気持ちで、山小屋でパンを焼いて暮らす人生を夢想していた。
 ふとした折に、田舎暮らしに憧れている自分に気付いて、恥ずかしいような、後ろめたいような気分になることがある。それが現実逃避であることは、自分が一番よく知っている。都会で生まれ育った僕には、自然の中で生活する苦労がわからない。だから余計に近くて遠い異国のことのように映るのだ。

 まだ日が高かった。回れ右して帰途につくのは物足りないので、そのまま県境を越え、吉野ヶ里経由で帰ることにした。

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 福岡側から国道263号線を佐賀方面に進み、三瀬有料道路の手前で旧三瀬峠へと逸れる。昔から難所と呼ばれていた曲がりくねった山道を抜けると、左手に今にも崩れ落ちそうな荒屋がある。ここにはかつて「寺子屋 誠典寺」というお寺があった。山奥の破れ寺だから、本業の仏事だけでは経営が成り立たなかったのか、あるいは檀家を抱えていなかったのかもしれない。縁むすびという小さなおむすびと、福岡界隈では珍しい鶏ガラで出汁をとったラーメンを販売していた。誠典寺はまた、ちょっとしたツーリングスポットとしても知られていた。僕も何度か来たことがある。オートバイ好きの住職が、ライダー限定で無料のコーヒーを振舞ったり、バイク雑誌とのタイアップでイベントを催したりしていた。
 と言っても、繁盛していた様子はない。ライダー相手の商売などそんなものだろう。数年前に休業と移転の告知をして、それっきりだ。どこかで営業を再開したような噂は聞かない。

 その誠典寺が、建物はそのままアンティークショップに挿げ替わっていた。外観は大きく変わってはいないはずなのに、店構えを見た途端に通じるものがあった。ふらふらと誘われるように入り口の戸をくぐった。

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 狭い店内には小物がひしめいていた。アンティークと言うよりはガラクタだ。とても売り物にはなりそうもない、ごみ捨て場からかき集めてきたような商品の数々に胸が高鳴った。少年時代の抑圧された生活の反動なのかもしれない、僕はこのてのジャンク品を前にすると、時が経つのも忘れて見入ってしまうことがある。何に惹かれているのか、自分でもよくわからない。骨董品が好きなのではないと思うのだけれど、素養の欠片くらいはあるのかもしれない。

 入って右手の奥、ラーメンが売り物だった頃は漫画雑誌が並んでいたあたりに、シンガーの古ぼけた足踏みミシンが据えてあった。戦前に作られたものを祖母が持っていたから、それより新しいことだけは、なんとなくわかる。調度品としては使えそうもない、機能性だけの飾りげのないデザインだ。一般家庭向けではなく、縫製工場などで使われていたのかもしれない。

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 そのミシン台の上に、黒く塗られた弁当箱のような物が置いてあった。横にツマミがあるのだけれど、一見した限りでは何をする装置なのか、どこがどう連動しているのかわからない。店の主人に尋ねてみると、「これはアレよ、ほら、ドアノブの内側」と答えが返ってきた。
 ドアノブの内側! よりによってドアノブの! 思わず小躍りしてしまいそうな衝動を、ぐっと抑えた。間違いない、この店は本物だ。

 荷物を入れるスペースがないから、何も買うまいと決めていたのに、気がつくと財布から小銭を取り出していた。七宝焼の丸い球体が2つ、振るとフヨンフヨンと不思議な音がする。表面に描かれているのは象だ。ガネーシャだろうか。ドアノブの内側を売っているような店だから、たいして意味のある品ではないに違いない。しかし、単なる飾りでもないような気がする。後で調べたところによると健康器具の一種らしい。手で握ってクルクル回すのだそうだ。ますます意味がわからない。

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 月に一度、骨董品のオークションが開催されているそうだ。寺子屋がなくなったのが寂しくはあるけれど、これからは今まで以上に足繁く通ってしまうような、なんとなく嫌な予感がする。これをきっかけにズブズブとのめり込んで散財することになりませんように。
 

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by TigerSteamer | 2014-12-14 23:58 | ツーリング

CBR1000RR 〜 オヤジにつける薬

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 おやじライダースクラブの最長老は、六十半ばの岩石のようなオヤジだ。数年前にVmax1200で自損事故を起こし、肩甲骨を真っ二つに割る大怪我を負った。オートバイの方は無傷に近いコンディションだったけれど、身体の完治を前に手放してしまった。ここしばらくはオートバイを所有していない。降りると明言したわけではないけれど、周りの誰もがもう乗らないのだと思っていた。
 重度の糖尿病を患っているから、おそらく視力の低下も理由の一つなのだろう。徹底した食事療法で、なんとか病気は押さえ込んだものの、体力の衰えは如何ともしがたいのだと思う。

 ひさしぶりに会った岩石オヤジは、寄る年波に洗われて一回り小さくなっていた。しかし、ズッシリとした質量は健在で、岩肌には艶が戻り、硬度はむしろ上がっているような気がした。彼は上機嫌で、ニコニコ笑いながら話しかけてきた。

「虎くん、ワシなあ」

「はあ」

「春頃にはまとまった金ができるけん、また買おうと思っとーとよ」

「買うて、何をですか」

「シービーよシービー、アールのついとる千シーシーくらいあるとば」

「・・・体は大丈夫なんですか。それに前傾キツイですよ、あれ」

「そげんスピードは出さんちゃよかばってん、うちの若いモンに言わせてみたかったい。『また年甲斐もなくそげなもん買うてからー』って」

 岩石オヤジは豪放磊落に笑って去っていった。てっきり腰痛の種にしかならないと思っていたけれど、前傾姿勢にはそういう薬効もあるらしい。
 

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by TigerSteamer | 2014-12-11 05:57 | オートバイ

ソロツーリングに雨の日が多いわけ

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ザ・川筋ライダース オーバードライブからの続き。半年以上前のことだし、長いので読まなくてもよい)

◆前回のあらすじ
 珍しく誘われてマスツーリングに参加した。声をかけてくれたのは、福岡県下でも特に荒っぽいので有名な、筑豊地区は田川市に本拠地を置くツーリングクラブ”オーバードライブ”だ。数年前まではちょくちょく参加していたのだけれど、仕事の都合で日曜日に休めなくなってからは、スケジュールがあわなくてご無沙汰になっていた。懐かしい面々に会いたかったし、ちょうど単独行に飽いてきた頃合いで、好都合だったとも言える。しかし、その一方で参加をためらう理由もあった。ダイエット中であり、食事制限を課している真っ最中だったのだ。





 その日は朝から快晴だった。
 なぜかマスツーリング当日は晴れている印象が強く、ソロツーリングは天気が崩れている思い出が多い。そんなはずはないから、きっと気のせいには違いないのだけれど、それならばなおのこと始末に悪い。マスツーの心象風景が晴天だとするならば、僕は心の奥深くで集団行動を望んでいることになるわけだ。ソロツアラーとしてのアイデンティティーに関わる問題ともとれる。
 なんにせよ、ひさかたぶりのマスツーリングは新鮮だった。柳家小三治という単車好きの噺家が、オートバイに対する思い入れを語った随筆集『バ・イ・ク』の中で、こんな言葉を書いている。「前を走るオートバイのテールランプを追いかけてはいけない」、この日は何度も心の中で呟いた。シンプルなようでいて、反芻すればするほどに深く頷ける。含蓄のある良い言葉だと思う。

 僕は普段から自由気ままなソロを上に、集団行動の制約が多いマスを下に見て、なにかと腐すことが多い。しかし、本来はそれぞれの良さがあるものであって、優劣を語るようなものではない。気心の知れた仲間がいれば、マスツーリングもまた何ものにも代えがたい楽しさを与えてくれる。
 一行はファームロードを南下して大分と熊本の県境を越え、途中の三愛レストハウスで昼食を摂ったあと、阿蘇大観峰を目指す予定だった。阿蘇ツーリングでは定番のルートだ。楽しい休日になるはずだった。
 我ながら言い訳がましいとは思うけれど、せっかくの楽しいマスツーリングをふいにした、なんとも説明のしにくい理由を噛み砕いて説明しようと思う。

 これはオーバードライブに限ったことではないけれど、僕の知る川筋の男たちは皆、なぜか食い物に拘らない。「クソになっちまえば同じ」程度にしか思っていない節がある。長崎を地図狭しと走り回った挙句、高速道路のパーキングエリアでラーメンを啜ったり、阿蘇の美味しいところをふんだんに盛り込んだルートを走破しつつ、食事は名もない食堂の取り立てて美味いわけでもないハヤシライスだったりする。そういうことが過去に何度かあった。いや、阿蘇のハヤシライスは立派なB級グルメだし、食べ物に拘らないのなら、それはそれで潔い。走りに来ているわけだから、それ以外の要素はオマケのようなものだ。だから、ここから先は僕の個人的な事情になる。
 食事制限を課している真っ最中だったことは冒頭に書いた。この日のツーリングに参加するために、数日前から食事をセーブし、当日の朝食は摂らなかった。昼はガッツリと美味しいものを食べる予定でいたからだ。当然ながら、夜も食べないつもりでいた。なにもそこまで気負わなくても、自分のペースを守ればいいじゃないかと思われる方もいるだろう。食事を抜いたら逆効果なのは知っている。しかし、ツーリング中の食事を目の前にした時の意志薄弱ぶりときたら水で濡らしたティッシュペーパー並で、あらかじめ決めたカロリー摂取量で我慢することなど不可能なのだ。思わず食べ過ぎてリバウンドの憂き目をみることだけは避けたかった。伊達に100kgオーバーを維持しているわけではない。デブにはデブになる理由があるのだ。

 加えて、三愛レストハウスという微妙なニュアンスを含んだ食事場所にも理由があった。味は悪くない。むしろ平均値を遥かに凌ぐクオリティで、建物が古いわりに清潔感もあり、値段が高すぎるなどということもない。阿蘇を目指す、すべてのツーリングライダーが一度はここで食べたことがあるだろうというくらいの、定番中の定番だ。しかし、定番ゆえに趣が欠けていることは否めない。阿蘇に慣れたライダーなら、自ずと選択肢からは外しがちになる。加えて、その日は祝日だった。店内は立錐の余地もない混雑ぶりで、ゆっくりと食事を楽しむことができる状況ではなかった。

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 魔がさした、という言葉がピッタリ当てはまる。とりあえず、店頭で売っている名物の辛子蓮根で飢えをしのいでいた僕の耳に、悪魔が囁いた。

 本当にここでいいいのか?

 お前が食いたかった物って、ここで食えるようなもんなのか?

 行けよ、行っちまえ・・・

 構うこたねえって。だってお前、ソロツアラーなんだろ? まつろわぬ魂がどうこうって、カッコいいこと言ってたじゃねえか。

 もはや、集団行動を乱すのに躊躇いはなかった。僕は人だかりの中にリーダーの姿を探すと、ゆっくりと歩み寄った。
 マスツーリングの日が晴れている理由は、雨だと中止になるからだ。相対的にソロツーリングに雨が多いように感じるのは、雨が降ろうと槍が降ろうと我慢ができずに出発してしまうからだ。僕はそういう人間なのだ。(歓喜の歌に続く
 

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by TigerSteamer | 2014-12-04 06:54 | ツーリング

歓喜の歌

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 信号待ちで立ちゴケしそうなくらい腹が減っていた。急用を思い出したことにしてマスツーリングの列から離れ、この店を目指したまではよかったけれど、途中で雷を伴う豪雨に見舞われて立ち往生したものだから、着いた頃には日が暮れかけていた。朝から何も口にしていなかったせいで、低血糖を起こす寸前だった。

 以前にも一度、この店を訪れたことがあった。その時は、月に何度もない定休日に泣かされて、目当てのものを食べることができなかった。今回が再挑戦というわけだ。
 とはいえ、熱望するほど大した食べ物ではない。大分県の郷土料理で「やせうま」という。小麦粉を水で溶いて手延べにしたものを茹で、きな粉をまぶしただけの子供のおやつだ。作家の椎名誠が雑誌のコラムで、麺文化不毛の地(大分県のことだ)における唯一の隠し玉的なことを書いていたけれど、贔屓目に見ても大のおとながわざわざ食べに行くほどのものではない。
 なんでも、大昔に当地を訪れだ偉い人が、「八瀬」なる従者に「うまいものをもて」と言ったのが名前の由来なのだとか。僕はてっきり「痩せた馬」なのだと思っていた。駄洒落めいた由来よりもむしろ、老いさらばえて肋の浮いた痩せ馬の方がしっくりくる、それくらい素朴で地味な食べ物だ。

 ただし、あの日、苦行に満ちた道のりの末に僕が口にしたものを除いては。
 あれは僕の知る「やせうま」ではなかった。ひと噛みごとに活力が漲る魔法の食べ物だった。モチモチした歯ごたえが顎を伝って全身の筋肉を引き締め、きな粉の滋養が瞬く間に吸収されて血管を駆け巡る。干からびかけていた一つ一つの細胞質基質に糖分が行き渡り、瞬く間に瑞々しさを取り戻して一斉に歓喜の喘ぎ声をあげ始めるような、未だかつて経験したことのない愉悦をなんと名付けよう。止まらないのだ、天の導きに呼応するかのように体の底から溢れ出す喜びの歌が。おお友よ、このような旋律ではない。 もっと心地よいものを歌おうではないか。もっと喜びに満ち溢れるものを。

 歓喜よ、神々の麗しき精霊よ、天上楽園の乙女よ。我々は火のように酔いしれて崇高な汝の聖所に入る。汝が魔力は再び結び合わせる。時の流れが強く切り離したものを、すべての人々は兄弟となる。時の刀が切り離したものを、物乞いらは君主らの兄弟となる。汝の柔らかな翼が留まる所で一人の友の友となるという。
 大きな成功を勝ち取った者、心優しき妻を得た者は、彼の歓声に声を合わせよ。

 そうだ、地上にただ一人だけでも、心を分かち合う魂があると言える者も歓呼せよ。そしてそれを成し得ぬ者は、この輪から泣く泣く立ち去るがよい。
 すべての存在は自然の乳房から歓喜を飲み、すべての善人もすべての悪人も薔薇の路をたどる。自然は口づけと葡萄酒と死の試練を受けた友を与えてくれた。快楽は虫けらのような者にも与えられ、智天使ケルビムは神の前に立つ。
 神の壮麗な計画により太陽が喜ばしく天空を駆け巡るように、兄弟よ自らの道を進め。英雄のように喜ばしく勝利を目指せ。

 抱き合おう、諸人よ。
 この口づけを全世界に。
 兄弟よ、この星空の上に愛する父がおられるのだ。
 ひざまずくか、諸人よ。
 創造主を感じるか、世界よ。
 星空の上に神を求めよ。
 星の彼方に必ず神は住みたもう。
 父なる神は宣う、
 空腹こそは最高の調味料であると
 
店舗情報
甘味茶屋
大分県別府市実相寺1−4
評価(星3つ)
使った金額3,000円~4,999円

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by TigerSteamer | 2014-12-02 03:58 | 食べ物一般