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CB750four 〜 百聞は一見に如かず

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 SF作家の平井和正の代表作に『アダルト ウルフガイシリーズ』という連作がある。主人公は犬神明という30代のフリールポライターで、満月の夜になると怪力無双、不死身の狼男へと変貌する。王道の巻き込まれ体質で、年がら年中トラブルに見舞われては、悪党を相手に切った張ったを繰り広げる。不死身なのは満月時だけで、月齢が若い時は並の人間と変わりがない。にもかかわらず、いかなる局面にあっても自分の中のルールは曲げない。痩せぎすで体重は50kgにも満たないくせに、へらず口を叩いてヤクザを挑発したり、荒事を避けずに逆に叩きのめされたり、そこが読者をハラハラさせる。

 立風書房からシリーズ第一作である『狼男だよ』が発行されたのは、僕が生まれるより早い1969年。たまたま古本屋で手にとって、たちまち虜になったのが小学5年生の頃だから、その間には10年以上の隔たりがある。しかし、ひと昔とは言うけれど、まったく古さがなかった。2013年の今となっては、やや違和感を感じる節もあるけれど、読み進めるのが苦になるほどではない。物語の妙というのもあるけれど、主人公の魅力にとりつかれるのだ。
 頭にアダルトと付くからには、無印のウルフガイシリーズもある。こちらはジュブナイル色が強く、高校生の犬神明が主人公だ。どちらもコンセプトは同じなのだけれど、僕は断然アダルトの方が好きだった。胸のすくようなバイオレンスに加えて、成人向けのエロスも盛り込んであって、ちょうど性にめざめつつあった僕にしてみれば、大人の世界を覗き見る楽しさがあった。エッチな本など買える年頃ではないから、非常に重宝した覚えがある。要するにエロガキだったのだ。

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 アダルト〜の主人公である犬神明は、普段はドブネズミ色のブルーバードSSSを乗り回している。羊の皮を被った狼と形容される通り、見た目は貧相でもフルチューンが施されている。スピードの出る乗り物であればなんでもござれのようで、シリーズ中では唯一『リオの狼男』の中に、主人公がオートバイに乗る場面がある。具体的な車種には触れていないが、HONDAの750とあるから、おそらくはコレに間違いない。カウリングつきの〜とあるので、ワークスRCBに似せたデザインか、もしくはそのものである可能性もある。物語の舞台はリオデジャネイロなので、日本の道路交通法には捉われないのだ。
 なにせ、その描写が凄かった。オートバイには何の関心も抱いていない少年の心を鷲掴みにして、将来は必ずHONDAの750に乗るのだと決意させたくらいだ。

 駐車場に見出したのは、とてつもない代物だった。
 カウリングつきのHONDA750。俗にナナハンと呼ばれるビッグ2輪だ。ゼロ四加速は軽く12秒を切る。スタート後こいつが四百メーター地点に達したとき、並みの4輪は二百メーターも走っていない。
 単に高性能というより、暴れ馬に近い。よほど体力に自信がないと、発進するやいなやたちまち振り落とされ、奔馬と化したこのビッグバイクは、はるか彼方へ疾駆し去ってしまう。相当な筋力と技術を持たなければ、750に乗るのは自殺行為に近い。
 しかも車重は二百kgを超す、圧倒的な量感だ。転倒したら、まず並みの人間には起こせない。それより先に足が折れている。
(『リオの狼男』より)

 ゼロヨン12秒台は、乾燥重量250kgの僕のTiger900でも、頑張ってクラッチを擦り減らせば出せそうな気がするし、車重の200kgも昨今の大型バイクの中では軽い部類に含まれる。数値の上でいえば、さすがに40年という時の流れを感じずにはいられない。「暴れ馬」や「自殺行為」などといった表現も少し大袈裟に過ぎるように感じるけれど、これはCB750fourの発売当時、社会問題になった二輪車による事故の増加を受けての事なのだろう。昔の免許証は普通車に自動二輪がくっついていたので、オートバイ独自のカリキュラムを受けていない者もいた。なんら訓練を受けていない乗り手とハイスペックなオートバイの組み合わせは、実際に自殺行為だったのだ。
 とはいえ、小学5年生の少年に、そういった時代背景などわかるはずもない。仮面ライダーのサイクロン号は200馬力で最高速が400km、ジャンプ力は30mだったけれど、それはあくまでテレビの中のことだ。しかし、HONDAの750は本当に乗り手を振り落とす暴れ馬で、技術体力共に充実していないと乗りこなすことができない。
 この一途な思い込みは、実際に二輪免許を取得してからも長らく尾を引いた。おかげで、友人に借りたYamahaのV-MAXや、試乗会で乗ったKawasakiのZZR1100ですら、あるいみ拍子抜けに感じた。たしかに速かった。加速も凄まじいものがあった。100馬力オーバーのオートバイには乗ったことがなかったから、まさに未知の領域だった。しかし、雑にアクセルを開けても振り落とされたりはしなかったし、とても自殺行為と感じさせる程ではなかったからだ。

 三つ子の魂百までとは言ったもので、様々な事情が明らかになった今でさえ、CB750fourは僕にとって特別な一台だ。このオートバイに乗る者には、無条件で畏敬の念を感じる。
 だがその一方で、長らく活字でしか知らなかったHONDA750の実物を、初めて目の当たりにした時の衝撃も忘れてはいない。愕然とするあまり、足元がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。なにせ、それまでの僕が「とてつもない代物」である「暴れ馬」HONDA750に重ねていたのは、下の画像のようなイメージだったのだから。


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by tigersteamer | 2013-12-29 02:56 | オートバイ

Ede, bibe, lude, post mortem nulla voluptas.(解禁!)

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 夜明中町のアウローラから梨が届いた。11月の下旬から1月にかけてが旬の晩三吉という種類だ。
 実が大きくて汁気が多い代わりに、ざらつきがあって甘みよりも酸味が強い。歴史は古く、発見されたのは江戸時代後期。全国的にみても、今ではもう殆ど生産されていない・・・・・・と、そんな風に聞いていたから、正直なところ余り期待はしていなかった。ところがどうして、さほど酸味は気にならないし、十分に甘い。シャクシャクした舌触りは、いかにも梨の果肉であって、口の中に違和感が残るほどではない。食べでもある。大ぶりで黄金色の梨は、こころなしか安息日の終わりを告げる教会の鐘のようにも思える。あと十日ほどで厄年も終わりだ。

 ここのところ夜が遅くて、しばらくは梨が届いていることに気が付かなかった。それがかえって良かったのかもしれない。甘みを増した果汁が滴り落ちんばかりだ。こんなことなら、5個ではなくて10個を頼んでおけばよかった。バタバタして埃っぽい年末に、ホッとひといき彩りを添える小包だった。今年の年頭は果樹園、それもフルスイングの空振りで始まった。最後は大きく実った果実で締めくくる。ここに何か符合めいたものを感じるのは楽観的にすぎるだろうか。来年は、食べて、飲んで、遊ぶのだ。今年はこれでも控え目だったのだから。

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by tigersteamer | 2013-12-19 01:30 | 食べ物一般

ウィルバー君、海を渡る

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 出前を頼んだ親子丼が待てど暮らせど届かないので、店に電話して催促したところ、「いま血抜きが済んだところで、これから調理にとりかかります」と返されるという小噺がある。「活きがいいので捕まえて〆るまでに手間取った」とかなんとか。

 そのての製造業には携わったことがないので、いまいちイメージがわかないのだけれど、それ流に言うなら、おそらく設計図は一から描き起こしているはずだ。CADなんぞは使わず、すべて手描きだ。それが終わって、ようやく組み立てが始まるかと思いきや、次のステップでは裏山で鉱石を採掘する。職人が一つ一つ丹精を込めて材料を吟味し、あれはダメこれもダメとより分けるから、ひどい時になると半年ほどは山に篭ることになる。プラスチックのパーツの場合は、あれは石油加工品なわけだから、当然アラブかどこかに出向く必要がある。そこまで拘り抜いた製品だから素晴らしい。採れたてピチピチだ。生産地の偽装などもってのほか、車海老の〜と言いながらブラックタイガーを使用するなどといった不正は、ドイツ人の沽券に賭けてもありえない。

 なんの話かと言えば、サスペンションだ。そろそろ注文してから半年が経過しようとしている。その間、まったく音沙汰がない。今のところ、納品までの最長記録ホルダーは、リアキャリアステーを購入した時のヘプコ&ベッカー社で5ヶ月だった。今回のウィルバースは、それをあっさりと更新し、記録は前人未到の6ヶ月目に達しようとしている。
 僕のTiger900は、製造中止から既に10年以上が経過しているオートバイなので、それで時間がかかるというなら仕方がない。最初に3ヶ月の納期を指定されて、そろそろかと思った頃に2ヶ月の延長を切り出されたという前例も耳にしている。ただ、なんの断りもなく半年というのは前代未聞のようだ。ドイツのメーカーなので、ちょっと訪ねて行って、工場が稼働しているか確かめるというわけにもいかない。

 アイルランド在住で同じTiger900のオーナーである友人にメールで相談してみたところ、彼はウィルバースというメーカーの存在を知らなかった。その上で、いくらなんでも半年は長すぎる。絶対に怪しいからキャンセルすべきだと断言した。社外品のサスペンションが欲しいなら、ホワイトパワー製でよければ(トップ画像の物)一本余っているから、安く譲ってやるとまで言う。なんて嬉しい申し出だ。胸が熱くなった。半年前に聞いていたなら、迷わずそうしていただろう。しかし最早あとの祭りだ。
 心配しても埒が明かない。座して待つより仕方がない。それに、あれこれ考えるより、実際はシンプルな問題なのかもしれない。

 ヘプコ&ベッカーとウィルバースには、同じくドイツのパーツメーカーだという共通点がある。リアキャリアステーの時は、船便や航空便ではなく、わざわざ社主であるヘプコ氏自らが熱気球に乗って届けてくれた。中国の上空で季節風の影響をモロに受け、大幅に進路を狂わされて大変だったそうだ。ロシアの辺りまで流されたところで領空侵犯の廉で撃墜されかかり、九死に一生を得たものの当局に留め置かれたせいで納期が倍になったと、やつれ果てた表情で話してくれた。
 ウィルバー君はおそらく、陸伝いに泳いで来るに違いない。あっぱれゲルマン人魂。さすがはサンタクロースを産んだ国ドイツだ。世界地図を眺めながら、そろそろ喜望峰には到達したかしら、ひょっとすると早々に東南アジアの辺りまでは来ているのだけれど、現地の食事でお腹を壊して立ち往生してるのかも、それともロシア回りのルートかしら、領海侵犯で捕まったりしたらヘプコ氏の二の舞だ、などと空想するのは楽しい。もとい、半ばヤケクソだ。そうでも考えないと、とてもやっていられない。

 もしウィルバー君の足が攣って溺れたり、サメのエサになったり、ロシア人に蜂の巣にされて志半ばで散った場合は、間違いなく背中に背負ったサスペンションも海の藻屑になるだろう。そうした場合、先に払った代金が返ってくる望みは薄い。覚悟はできている。捜索にかかる費用か線香代にでも充ててもらって結構だ。だからせめて、死因がなんなのかくらいは教えて欲しい。頼む方も作る方も覚悟が要る。ドイツ人から物を買うというのは、そういう事だ。
 

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by tigersteamer | 2013-12-17 12:39 | オートバイ

オートバイ乗りの燃料

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 晴れてはいるものの大変に肌寒い昼下がり、オープンカフェで震えながらスパゲティとミートグラタンを食べる。これは、冬のさなかに完全防寒でオープンカーに乗る好き者と似ているかもしれない。ただ、僕はオープンカーを持ったことがないので何とも言えないけれど、共通点が多いとされるオートバイ乗りとは少し違うような気がする。ニュアンスの上でのことなので、どこがどうとは言いにくいけれど。

 風の噂に冬季限定メニューのミートグラタンが解禁になったと聞いて、さっそく店を訪れた。前に食べたのは春先のことだった。たしか、阿蘇へツーリングに行った帰りだ。凍てつくような夜風に晒されて、ガタガタ震えながら、やっとの思いで店にたどり着いた。入り口のガラス戸を開けると、そこには数人の先客がいた。みな酔客だった。昼間は洒落たレストラン、夜はお酒を出すタイプの店だ。酔っ払い達の楽しげな語らいを遮らぬよう、端っこの席に座った。何か温まる物をとメニューを見回して、そこにミートグラタンを見つけた。
 直感は一口食べて確信に変わった。ガソリンスタンドで売っているのがガソリンだけではないように、エチルアルコールでは焼き付きを起こしてしまう者もいる。トマトの酸味と分厚いチーズのコク、ぎっしり詰まった挽き肉の濃厚な旨味、これは酒飲みを喜ばせる為だけのメニューではない。
 確かに赤ワインにはあうだろう。ビールで乾杯した後で、気のおけない仲間と一つの皿をつつくのにも最適かもしれない。でもそれだけではもったいない。これはオートバイ乗りの燃料だ。こってりとハイカロリーで、内燃機関を内側からブン回してくれる、とびきりオクタン価の高い燃料だ。

 きっとライダー達の冬の定番になるだろう。グッツィ乗りのマスターが、寒いから店の中で食べませんかと誘ってきた。わかっちゃいねえな。いいんだよ、いま暖気の最中なんだから。このくらいの寒さが丁度いいんだ。そういえば、忙しさにかまけて、ここしばらくは乗れていないとボヤいてもいた。作るばっかりじゃなくて、自分でも食べてみるといい。コイツでどこまで走れるか競争してみよう。冬は長いんだから、閉じこもってるとエンジンが腐るぜ。
 

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by tigersteamer | 2013-12-14 23:03 | ツーリング

チャンポンという食べ物

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 まずはこちらを御一読ねがいたい。我ながらダラダラと長い文章だが、内容は薄いのでサラリと読めるはずだ。
『日帰りソロツアラーのジレンマ』

 僕がブックマークしているブログの主が、いまきん食堂に行ったという記事をアップしていた。昔からあるツーリングライダー御用達のお店なので、それだけなら特に珍しくもない。普通なら読み飛ばして終わりだっただろう。
 普通じゃなかったのは、あか牛丼をあえて頼まずにチャンポンを食べていたことだ。あの「いまきんチャンポン」をだ。それも、下知識もなく一見で入って、なにが名物かも知らずに・・・というわけではない。なにもかも知った上で、あえてチャンポンを注文しているのだ。思わずiPhoneを取り落としそうになった。

 読まなければよかった。しかし、目を通してしまったのだから仕方がない。そもそも、ブログにはチャンポンを食べたとだけ書いてあって、それ以外の情報には触れていないのが気にかかった。味はどうだったのか、美味かったのか、それとも口に合わなかったのかすら明確にしていない。ツーリングレポートや主の愛車であるR1200GSに関する記事だけではなく、阿蘇近辺のグルメ情報に重きをおいたブログだからこそ愛読しているのに、この素っ気なさは不自然だ。
 返す返すも、あの「いまきんチャンポン」だ。ベテランのツーリストや地元民の前で、あか牛丼を食べましたなどと不用意に口にしようものなら、ジロリと一瞥した後でフッと目をそらし「しょせんは観光客か」などと呟かれたりする、あのいまきんチャンポンだ。『いまきん食堂を訪れるライダーには2種類いる。あか牛丼が目当てで大挙して押し寄せるサンデーライダーと、一人でぶらりと立ち寄って、カウンターの端でチャンポンを食べるオートバイ乗りだ』なんて格言すらある。

 これは確認せざるをえない。震える指で文字盤をフリックし、ブログのコメント欄に「チャンポンの味はいかがでしたか」と入力した。すぐに返事が返ってくるわけがないので、そのまま一晩待った。一日千秋の思いとはこのことだ。
 翌日、仕事から帰ってからさっそくネットに繋げた僕は、そこで信じ難い返信を目にした。
「なんてことはない、ありきたりのチャンポンでした」
 そんなはずはない。きっと何かの間違いだ。食べ物の好みは千差万別なので、たまたま口に合わなかっただけだ。そうに違いない。なにはともあれ、これは確かめねばなるまい。矢も盾もたまらず、オートバイに飛び乗った。

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 地味な見た目と、特別な具材や流行りに反したボリュームのなさにハラハラしたけれど、いまきんチャンポンは予想していた通りの美味しさだった。ごく普通のチャンポンの範疇を出ないと言えば、全くもってその通り。ありきたりのチャンポンだからこそ美味しい。もし不味いチャンポンがあるとしたら、それは奇を衒ってレシピを無視した物を作ろうとした結果だろう。
 初めて入った店で注文するものに迷ったら、とりあえずチャンポンにしておけば間違いはない。肉と野菜がバランス良く含まれているから栄養に偏りがないし、具材の旨味がたっぷり含まれたスープの不味いわけがない。同じ麺類でもラーメンなどとは違い、この当たり外れのなさが災いして、いま一つメジャーになりきれないのも確かだけれど。

 それにしても、チャンポンと肉味噌おにぎり二つのコンボは食べ応えがあった。満腹感から幸せな余韻に浸ったが、なんとなく寂しくもあった。長年のジレンマが解消したわけだから、もっと晴れ晴れした気持ちになってもよさそうなものだ。最後に食べようと取っておいた大好物に、つい手を出してしまったような気持ちといえばわかって貰えるだろうか。達成感はあったものの、ここに来る目的を失ったような気さえする。

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 次に目標を掲げるとしたら、メニューの裏書きにある4項目目のコレだろうか。いまきん食堂は、店内の随所にこういったユーモアが散りばめてあって、料理が出てくるまでの手持ち無沙汰を埋め合わせてくれる。これもネタには違いないけれど、確かに大勢いる店員は不自然なくらい女性ばかりだ。ここで真に受けて声をかけたのがきっかけで交際がスタートしたりして・・・などと、あらぬ妄想を駆り立てつつ帰りに厨房を覗いたら、奥で丸まると太った男性が鍋を振るっていた。危ない危ない、どこにも女性だなんて書いてない。まさか独身ってのはアレじゃあるまいな。
 

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by tigersteamer | 2013-12-06 23:36 | 食べ物一般