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腕利きシェフにお願い

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 その日は料理当番だった。いつもは遅刻ギリギリまで時間つぶしをするところが、勤務開始の15分前には職場に入った。大急ぎで手を洗い、割烹着に袖を通し、厨房にはいるや否や冷蔵庫を開け放って食材の確認を行う。季節の行事やお祝い事など、特別な場合を除いてメニューの指示はない。そこにあるもので人数分の食事をでっち上げなくてはならない。

 制限時間は90分、悠長に構えている余裕はない。料理を作り慣れている人なら十分なのだろうけれど、こちとらはズブの素人だ。ファンファーレと共に無慈悲なカウントダウンが始まり、ものすごく低レベルなキッチンスタジアムの幕が切って落とされる。
「おいしい物ばかり食べてると、人間が腐る」
 毎回の儀式であるオマジナイを唱えてから、おもむろに野菜の皮むきを開始した。
 ピーラーで野菜の表面を削り落としたら、ジャガイモを茹でている間に、玉ねぎを微塵切りにする。それをフライパンで炒めて、合挽き肉と合わせる。塩分制限があるので、塩胡椒は控えめに。足りなければソースで補ってもらおう。茹で上がったジャガイモは熱を冷ましてから潰し、先ほどの玉ねぎとミンチを混ぜて、小判状に丸める。あとは溶いた卵にくぐらせて、フライパンで焼くだけだ。新ジャガイモと新タマネギのコンビだから、十分美味しいに違いない。

 できあがりを大きめの皿に取り分け、前もって作っておいたホウレン草のソテーとニンジンのグラッセを添えた。我ながら良いできだ。あとはサラダを用意しよう。残り時間は30分ほど。楽勝だ。まもなくミッション終了。今回はラッキーだった。学生時代から今に至るまで、何十回、何百回と作った料理だ。目をつぶってでもでき・・・うわあ、やべえ味見してねえよ。バカバカバカ俺のバカ。
 その時、おそらくは心配して様子を見にきたパートのおばちゃんが、背後で感心したような声をあげた。
「虎ちゃん、ピカタやら知っとうと。考えたやない、簡単で美味しかもんねえ」
 ピカ太? 光太?
 なんのことだ。流行りのキラキラネームだろうか。おばちゃん、孫にその名前をつけるのはやめた方がいい。きっと学校で虐められるよ。
「余った卵はスクランブルエッグにしてから、横に添えるとよかよ」
 その聞きなれない言葉が、僕の作った料理を指しているのだと気付くまで、しばしの時間が必要だった。
「・・・ピカタって、ひょっとしてこれのことですか」
「そうよ、知らんで作ったと?」
 そんなはずはない。これはそんな名前の料理ではない。僕の断りもなく変な呼び名を付けないで欲しい。


後半へ
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by tigersteamer | 2013-05-27 12:34 | 食べ物一般

日帰りソロツアラーのジレンマ

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使った金額1,000円~1,999円
評価(星3つ)
 日帰りソロツアラーは食事の面で報われないことが多い、というのは前にも書いた。さんざん走り回った挙句、コンビニの軒先でカップラーメンを啜ったりというのは誇張でもなんでもない。そこいらを踏まえた上で、最近では通称ラーツー(カップラーメン ツーリング)という、自宅から湯を沸かす道具を持参して、見晴らしの良い場所でカップ麺を食べるのが目的のツーリングさえある。
 だが、日帰りソロツアラーの食事に不遇をもたらす理由は、その限りではないのだ。

 熊本の内館温泉に、百年の歴史を持つ「いまきん食堂」という店がある。看板メニューは「あか牛丼」で、その名の通り、名産である赤牛の肉を使った牛丼だ。
 何度もテレビで紹介されている有名店だが、一見どこにでもある定食屋さんである。繁盛している割にキャパシティが小さいので、平日でも行列ができていることが珍しくない。ツーリングライダーとしては一度は食べておきたいと思う反面、待ち時間を考えると二の足を踏みがちになる。ただ、ソロツーリング(おひとり様)の場合だと、長い行列をすっ飛ばしてカウンターの端っこに案内してもらえることがあるから、テーブル席の客ほどには待たずに済む場合もある。

 この「あか牛丼」だが、人それぞれ好みがあるので一概には言えないけれど、看板メニューとして持て囃されるほど美味いものではないように思う。あっさりした味付けには好感がもてるけれど、肉自体は硬くはないけれど柔らかくもなく、とりたてて旨いという実感は湧かない。ボリューミーではあるけれど、あくまで丼物の範疇である。素材の味を活かすなら他の食べ方をするべきだ。
 ただ、ご飯の上に牛肉を敷き詰め、真ん中に温泉卵を落とした見た目はインパクト満点だし、食べ応えもある。見るからにハイカロリーで、引き続き午後も走り回ることを考えると、ツーリングの昼食としてはうってつけだ。これがオージービーフなら価値はないけれど、褐毛和種(あかげわしゅ)は熊本と高知固有の肉牛なのだそうで、行った土地の名産を食べるわけだから、さらにポイントが高い。加えて創業百年ともなれば、なにやら名所旧跡を訪れたような気さえする。一杯1200円という値段もちょうど良い。安くはないが決して高過ぎず、普段より良い物を食べている気分に浸れる。

 さて、この「いまきん食堂」で昼食をとるにあたって、日帰りソロツアラーとしては非常にやるせないことが一つある。「あか牛丼」の金看板を背負っているわけだから、それがオススメなのには違いないのだけれど、地元民や古くからの常連客に言わせれば、いちばん美味いのは680円のチャンポンなのだそうだ。
 遠方にお住まいの方には馴染がなかろうと思うので、あえて説明しておきたい。チャンポンと言えば長崎が有名だけれど、これは全国に展開している外食チェーンのリンガーハットによるところが大きい。チャンポン自体は、九州全土で見受けられる、豚骨ラーメン以上に珍しくない食べ物だ。
 要するに、チャンポンが美味い店というのは、品揃えの良いコンビニ並みに珍しくない。とりたてて褒めるところがない店を指して、あそこはチャンポンが美味いよ、などと言ったりもする。

 せっかくなら、その店でいちばん美味しいメニューを頼みたい。いまきん食堂の場合は、混じりっ気なしにチャンポンが美味いのかもしれない。だからと言って、わざわざ阿蘇まで来ておいて、あえてチャンポンだけを注文する気にはならない。ちょくちょく通える距離に住んでいるなら、一度くらいはいいかという気にもなるけれど、実際は半年に一度行くのがいいところだ。せめて2人旅なら、あか牛丼二人前とは別にチャンポンを一杯だけ注文して、半人前ずつ分けることだってできる。
 ただ単に食べ切れるかと言うことなら、食べ切れる。それは断言できる。あか牛丼の大盛とチャンポンを注文して、空いたスペースに肉味噌おにぎりを詰めるくらいは平気だ。コンディションさえ良ければ、あか牛煮込み定食もいけるかもしれない。

 ただ、それをやってしまうと、午後は襲いくる睡魔と闘わざるを得なくなる。これは深刻な問題だ。阿蘇はオートバイツーリングに適した道が沢山ある反面、死亡事故も多い。景観に気を取られた結果の事故が殆どだろうけれど、半分くらいは居眠り運転が原因だと確信している。昼寝でもするのが一番だけれど、日帰りソロツアラーとしては、食後にゆっくり休憩する暇があったら1mでも長く走りたい。
 よって、いまきん食堂のチャンポンを食べることは、当分の間なさそうだ。実にやるせない。日帰りソロツアラーだからこそのジレンマである。
 
店舗情報
いまきん食堂(赤牛丼)
熊本県阿蘇市内牧−366

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by tigersteamer | 2013-05-24 03:04 | ツーリング飯

迸ること滝の如く

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 うちの虎も冬眠から醒めたので、午後から休みを貰って、ひとっ走り愛ちゃんに会ってきました。


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 元気にしてたか。おおよしよし、いい娘だ、いい娘だ。よーし、じゃあ今日も頼んだぞ。

 そーれ ♪ ポックリポックリあーるーくー




※ 一部、大変に聞き苦しい場面があります。食事時などは避けて御視聴ください。
 

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by tigersteamer | 2013-05-22 04:54 | ツーリング

恋の肉うどん定食

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 二十数年前、僕は兵庫県は西宮市のとある喫茶店でアルバイトをした。
 生まれて初めてのアルバイトだった。そしてその時は知る由もないけれど、その後の長い職業遍歴の中でも、飲食店のフロアスタッフをやったのは、これが最初で最後だった。忘れもしない、高校三年生の夏休みのことだ。

 当時はまだ、後にA級戦犯的な扱いを受ける学力偏差値というものが、学校教育の中に確固として存在していた。大学受験を間近に控えた僕に、アルバイトにうつつを抜かす余裕などなかったはずだが、クラスメイトがそのアルバイトの話を持ちかけるやいなや、躊躇することなく頷いていた。期間はひと夏、予備校の夏期講習に参加する彼の代りに、ということらしい。
 一身上の都合で二年生まで学んだ東京の高校を辞め、春から兵庫県の私立校に通っていた。いわゆる大人の事情により、やむにやまれずだ。決して自分から希望した転校ではなかったから、少し自棄になっていたのかもしれない。そのうえ、生来のヘソマガリ体質が災いしてか、横這い状態から急下降し始めた偏差値の折線グラフを見ても、危機感を抱くことはなかった。

 人の流れとは逆方向に歩きたいと思う僕の偏った性格は、この頃がピークだったような気がする。
 そのくせ、本格的にレールをはずれる勇気はない。進学を諦めて、就職活動に転じる気もなかった。結局は皆と同じように勉強をして、皆と同じように大学の門をくぐるのだ。当時の僕にもそれがわかっていて、だからこそそんな自分が嫌だった。人によっては、それを思春期にありがちな心理だと一笑に付すかもしれない。しかし、あれから人生の半分以上を経た今でも、僕はあの頃と同じ感情に衝き動かされることがある。

 関西学院大学が近かったせいか、外回りと思しきスーツ姿の客に交じって、大学生らしき客もいた。自分も親がかりの身でありながら、おそらくは大多数が僕同様の脛齧りである彼らを嫌っていた。折角の長期の休みだというのに、目的もなくダラダラと過す彼らを、ひどく軽蔑しながら漫然と働いた。

 その喫茶店は、僕のほかにもう一人、女性のアルバイトを雇っていた。
 彼女は二つ年上で、地元に住んでいるものなら誰もが知っている、そこそこ由緒のある女子大の学生だった。流行の帰国子女ではなかったはずだが、英語がペラペラだった。だからと言って、決してお嬢様だったわけではない。
 ナチュラルな太い眉毛が流行っていた当時、彼女のそれは不自然を通り越して不気味ですらあった。眉毛があるはずの場所には、何も生えていなかった。まだバブルの残り香が漂っていた頃だ。街にはワンレングスとソバージュが溢れかえっていた。しかし、彼女の髪型はモップを逆さにしたようなショートで、さらに金髪だった。毛先はいつも痛んでいた。毎日時間ギリギリに、寝巻きと見紛うばかりのラフな服装でやってきて、オーナーが帰宅した閉店後の掃除は必ずサボって帰った。

 彼女はパンクバンドのボーカルで、活動資金を稼ぐためにアルバイトをしていた。
 バンドは4人編成で、何かの理由でクビにしたベースの代わりを、オーディションで決めるのだと言っていた。僕はすぐさま立候補した。ベースを弾いたことがあるかどうかは、このさい別問題だった。彼女と一緒なら、どんな無茶でも可能なような気がした。しかし、女の子バンドだからダメだと無碍に断られた。
 ジョーン・ジェットが好きだと言っていた。井の中の蛙的メタルキッズで、洋楽ロックといえばジューダス・プリーストとアイアン・メイデンと、そのフォロワーしか知らなかった僕に、お気に入り曲の入ったカセットを貸してくれた。僕は瞬く間にファンになった。ただし(たしかにヘヴィ・メタルとハードロックが混同されていた時代だったけれど)、その日のうちに宗旨替えを果たしたのは、いかにもポリシーがなさそうで、我ながらやりすぎだったと思う。

 その反面で、実は山口智子も好きだったらしい。
 休憩時間に、一見縁のなさそうな女性向けのファッション誌を眺めながら、ボソリと呟いた。僕はとっさに返事が返せなかった。ジョーン・ジェットと山口智子、姉御肌という意味では共通点もあったのかもしれないが、あまりにヴィジュアル的に乖離していたからだ。彼女とジョーン・ジェットを結ぶ線の延長線上に、山口智子はなかった。麓に向かって登山道を下っていたら、何故か隣の山の頂上に出てしまったような心境だった。僕が唖然としていると、彼女は恥ずかしがるどころか、万引きが見つかった挙句、店員の前で居直る不良少女のような口調で、トレンディドラマが好きで何が悪いとばかりに見得を切ってみせた。何も悪いはずがなかった。

 彼女は決して美人ではなかった。今でこそ、横顔が天然記念物のモリアオガエルに酷似していたと冷静に思い出すことができる。しかし、まったく判断能力を失っていた当時の僕は、耳と目元が山口智子になんとなく似ているとおだてて、無理矢理に機嫌をとろうとした。いや、半ば本気でそう思っていた。
 彼女もまた、僕が嫌いな大学生の一人のはずだった。しかし、毎日毎日カウンターに並んでは、雲雀の子のように囀りながら口を開けているだけのジャガイモ頭どもとは違っていた。大学にはまともに通っていないと言っていたからだろうか。違う。

 彼女は特別だったからだ。
 恋をしていたからだ。


 後半へ続く
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by tigersteamer | 2013-05-18 02:19 | 食べ物一般

私はスクラップになりたい

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 先日、熊本市内に些細な用事があって、ツーリングがてらセローで下道をトコトコ走ってきた。朝早く出発したので時間はたっぷりあったし、予定というほどの予定があるわけでもないし、道草を食いながらの道程だ。途中の山鹿温泉で小一時間ほどお湯につかり、すっかり良い心持ちで昼食をとるのによさげな店を探していた。車の列を縫うように走りながら、ふと沿道に何か大切なものを見落としたような気がして、あわててオートバイを停めた。

 思い出のオート三輪。ただし、たいして懐かしくはない。通り過ぎてしまったほうが良かったのかも。錆び付いたボディを目の前にして、当時の記憶がまざまざと浮かんできた。一昨年の冬、福岡県の久留米市で働いていた時のことだ。職場の管理者が女性事務員と手に手をとって夜逃げしたことを知った、その翌日だった。
 立ち上げる以前から関わった会社は、オープンから半年経っても赤字続きだった。その数ヶ月前には、管理者と事務員2人、中間管理職的なポジションにいた僕の4人を除く社員全員が一斉に辞表を提出し、ついでにその翌日から出勤しなくなるというアクシデントがあった。急遽、補充された人員は全員フィリピン人女性で、日本語の読み書きもロクにできないくせに歌と踊りだけは上手だった。それでも、なんとか円滑に回り始めた矢先だった。

 まるで悪い冗談だ。なにも女性事務員まで道連れにしなくてもよかろうにとは思ったけれど、二人が深い仲だというのは、僕以外のすべての職員の知るところだったらしい。不思議となんの感慨もわかなかった。そりゃあ逃げたくもなる。毎月、決まった日に給料が出ているのが不思議なくらいだった。
 そんな中、福岡から職場のある久留米へと出勤する途中で、勤務先へと続く最後の角をどうしても曲がることができずに、そのまま直進して熊本の植木まで逃げた。携帯電話の電源は落としたまま。この青果市場の駐車場に放置してあるオート三輪の横に車を停めて、日が暮れるまでボンヤリしていた。

 あの頃の精神状態がどうだったのか、自分でもよくわからない。普通ではなかったはずだけれど、毎日のように役立たず、穀潰しと罵られながら、どこか他人事のように面白がっていたようなフシもある。実際、その翌日からは普通に出勤して、オーナーからボロカスに貶されても平気だったから、大したことはなかったのだと思うけれど。
 思い出したくもないけれど、あの一年があったから、今こうやって呑気にツーリングなんぞができるわけだ。なにかの糧になったという自覚はないけれど、そう考えると逃げなくて良かったのかもしれない。ただし、幸せになれたのは僕だけだ。

 責任の一端は自分の無能にあった。これだけは間違いがない。あの日、このオート三輪の並びで、すべての動きを止めてスクラップになってしまいたかった。もう一度、僕と関わったすべての人に会って謝りたいような気もする。今となっては、もはや叶わないことだけれども。

 何の役にも立たず
 邪魔なだけだが
 少なくとも害はない
 そんな生き方を望むのか。

 僕は役に立つ
 スクラップでいたい。
 雨に打たれ、風に晒され
 この身を錆びつかせても
 誰かのためにある
 スクラップでいたい。

 たわいもない言葉が
 時に人を癒すように。

 

 
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by tigersteamer | 2013-05-16 02:50 | 雑記

僕は奴等が恐ろしい

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 春の交通安全週間も無事に終わった今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。麗らかな日差しに誘われて久方ぶりにオートバイにまたがり、あまりの気持ちの良さにアクセルも開け気味になって、ミラーに映らない角度から音もなく近付いてきた白馬の王子様から、ありがたくないお手紙を頂戴したりしておられませんでしょうか。

 我々オートバイ乗りは、世間一般の善良な市民よりも僅かばかり警察とお付き合いをする確率が高いわけですが、身近であるが故に軽視しがちであることも事実です。オートバイ乗りの困った習性として、スピード違反や白バイと鬼ごっこをした話を、自慢げに話す輩もいます。たしかに、最近の警察官は物腰も穏やかで、恐ろしさを感じることは少ないかもしれません。しかし、侮ってはいけません。僕が実際に垣間見た、警察官にまつわる体験談をすることで、僅かでも皆さんの注意を喚起できればと思う次第です。

 今回お話しするのは今から二十年ほど昔のことです。 当時、大学生だった僕はその日、同じ大学空手道部の一年生4名で車に乗り合わせ、演武会で使用する試割り用の瓦と白木のバットを購入するために、大阪にある武道専門店に出向いていました。
 一行は4人が4人とも地方出身者で、大阪に土地勘のある者はいませんでした。部活の先輩が書いた不細工な(その上、間違った)地図を頼りに、初めての土地で右往左往しながらの道行き。今のように便利なカーナビがあるわけでもなく、道路案内板を頼りにアッチでもないコッチでもないを繰り返しながら、ようやく目的地で買い物を済ませた頃には、すっかり日は傾いていました。そのまま、まっすぐ帰途に就けばよかったのですが、用事を済ませた一行は大学のある和歌山へ帰る前に、ちょっと寄り道をすることにしました。和歌山にも遊ぶ所はありますが、さすがに大阪とはスケールが違います。わざわざここまで来ておいて、黙って帰るのは勿体ないと思ったからです。

 普段は硬派を気取っていても、遊びたい盛りの若い男たちのことですから、足は自然と盛り場に向かいます。いい塩梅に日も暮れかけています。刻一刻と更けていく夜の空気が、否が応でも気分を盛り立てます。あわよくば女の子でもナンパして、と言ったところで、坊主頭でムサ苦しい男子学生の群れになど、オシャレな女子が振り向いてくれるはずもありません。それに「ナンパ橋」「アメ村」「ミナミ」やら「キタ」やらいう盛り場の断片的な知識はあれど、それがどこにあるのかすら知らないわけですから、辿り着くのも容易ではありません。ですが、その場の勢いとは恐ろしいもので、車に乗り合わせた誰もが、その後の楽しい時間を信じて微塵も疑いませんでした。

 そんな矢先、いきなり道の両側からガラの悪いオッサンの一群が走りでてきて、車の進路を塞いだのです。
 青天の霹靂、とっさにそんな言葉が浮かんだのは、オッサンらの風体があまりに異様だったからです。霹靂はカミナリを意味する言葉です。晴れているにも関わらず、なぜか全員が全員、折り畳み傘を手にしていました。そして皆、辛気臭さを絵にしたような、一見して胡散臭い風体でした。ドブネズミ色のハンチングにチョッキ、薄汚れたジャンパーは、とっさにノミ屋か手配師を連想させました。
「な、なんやお前ら」
 突然のハプニングに鼻白みながらも、かろうじて威勢を失わない体育会系空手道部の面々。喧嘩やったら買うたろうやないか。
 上ずった声で啖呵を切りつつ車のウインドウを下げるやいなや、倍倍倍返しの罵声が降りかかりました。
「やかましわボケ」
「車から降りんかい、いてまうぞアホンダラ」
「降りてトランク開けんかい。はよせえ」
 これが大阪名物パチパチパンチ・・・もとい、音に聞こえた関西ヤクザに違いありません。先ほどの威勢はどこへやら、わけがわからないまま、脅されるがままに車を降り、トランクを開ける友人。車の後部座席で縮こまる僕。空手をやっていようが、腕っ節に自信があろうが、人より上背があろうが、人差し指でリンゴに穴が穿てようが、そんなことは、いきなり降りかかる圧倒的な暴力の前では意味をなさないのです。
 トランクが開くガチャリという音の後、しばし流れる沈黙、不気味な停滞。そして一気に噴き出す土石流のごとき時間の奔流。怒号の渦。
「動くな、大人しうしとけ!」
「和歌山くんだりから、よう来たのう。死にたいんかワレ!」
「ケンキョやケンキョ!」
 ケンキョって、謙虚? どゆこと?
 その時になって初めて、オッサンらが手にしている折り畳み傘が、実は傘のカバーを被せて、簡単にカモフラージュした警棒であることに気が付いたのです。
 こ、この人たち、ひょっとして警察官? ケンキョって検挙?
 力ずくで車外に引きずり出され、地べたに押さえつけられ、手首には冷たい感触が。無実を叫ぼうにも、なんの咎で捕まったのかさえわからずに、ただ「すいませんでした」「勘弁してください」を連呼する僕ら。

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 その日、西成のあいりん地区で、日雇い労働者たちによる暴動が起きたのだと知らされたのは、散々小突きマワされて、ようやく容疑が晴れた深夜になってからでした。大阪府警のマル暴の刑事が、暴力団員から賄賂を貰ったことに端を発した暴動でした。
 フラフラと不審な挙動を繰り返しながら行きつ戻りつを繰り返す和歌山ナンバーの車を止めてみれば、乗っているのは揃いも揃って目つきの悪い坊主頭の集団。さらにトランクからは瓦とバットがゴロゴロ。ここにキナくさい臭いを感じない方がおかしい。タイミングの悪いマヌケ面の学生たちにとっては降って湧いたような災難でした。

 いかがだったでしょうか。前途のある青年の心に、決して消えないトラウマを焼き付けた一件でした。今でも僕は、警察官の制服を見るだけで避けて通りたい衝動にかられます。たしかに、マル暴と交通機動隊では取り締まる対象が違いますし、性質も違うのでしょう。しかし、警察は警察です。いつ何時、どんなきっかけで牙を剥くか知れたものではありません。どうぞ、ゆめゆめ油断されませんように。それでは皆さん、よいオートバイライフを・・・。
 

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by tigersteamer | 2013-05-06 22:27 | オートバイ

犬に絡む迷惑な客

 
関連 眼鏡ライダーの夢

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 どうやら、眼鏡ライダーの夢は「開発中」⇨「準備中」から「検討中」へと大きく後退したようです。やぶへびでした。期待していた皆さん、申し訳ない。
 

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by tigersteamer | 2013-05-02 14:46 | オートバイ

眼鏡ライダーの夢

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 メガネを掛け始めたのとオートバイに乗り始めたのが、ほぼ同時期にあたる。これは単なる偶然ではなくて、オートバイの免許を取得するための視力検査を、裸眼ではクリアできなかったからだ。途中でコンタクトレンズやレーシック手術に憧れた時期もあったけれど、概ね人生の半分である二十年を、この二つの道具と過ごしていることになる。とはいえ、思ったほどに感慨が湧かないのは、同じ物をずっと使い続けているわけではないからだ。メガネもオートバイも(それ以外の物も)同様に、あまり道具を大切に扱わない質で、壊れる度にとっかえひっかえを繰り返してきた。

 オートバイはGB250クラブマンを皮切りに、VT250スパーダ、VFR400R、CB750F、ブロス Product1とホンダ車を乗り継ぎ、ちょこちょこメーカーを変えた後でトライアンフに落ち着いた。メガネはHOYAの一辺倒だったのが、数年前にシルエットというオーストリアかどこかのメーカーに乗り換え、それがあまりにヘルメットとの相性が悪くて、現在はメガネ21で購入したFit-Schoolというモデルを愛用している。
 どちらも今のところ気に入っていて、できれば長く使いたいと思っている。我ながら成長したものだ。逆に言えば、愛着を感じられる物がなかったから、同じ物を長く使うこともなかったのかもしれない。

 オートバイとメガネの遍歴を語ったわけだから、次はヘルメットについても触れておかなければならない。こちらは遍歴などない。SHOEI一択だ。今も傷だらけでボロボロになったRFXを、かれこれ5年近く使い続けている。一回でも強い衝撃を与えると買い替えを推奨するヘルメット業界にあって、これはリスク無視も甚だしい。一種の危険行為だ。しかし、他人より頭がデカい上に不格好で、このメーカーの物しか入らないのだから仕方がない。長年かけて育て上げた帽体のヤレ具合がちょうど良くて、おいそれと手放す気にはなれずにいる。

 さて、そのメガネ21のウェブページで、もうずーっと前から「準備中」と表示されている商品がある。何を隠そう、フルフェイスヘルメット用メガネ Fit-Bikeだ。僕の記憶が確かなら、「準備中」の前は「開発中」だった期間もあったはずで、いずれ「発売中」になるのは時間の問題なのだと思う。

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 フルフェイスをかぶる時のメガネには、ツルが適度に硬く耐久性があって、耳の部分の反りが緩やかな物が適している。前出のシルエットというメーカーの製品は、NASAの宇宙パイロットが愛用しているというのが売り文句だったのだけれど、前者において致命的な弱点を抱えていていて、使いにくいことこの上なかった。安月給の身としては少々値の張る買い物だったので、眼鏡屋のセールストークを鵜呑みにした自分の馬鹿さ加減に、後悔もひとしおだった。
 その点でFit-Schoolは遥かに使い勝手が良いのだけれど、やはりデザイン重視でツルが細い分、心もとなさが残る。僕のように頭が大きいと、顔と帽体の間に無理やりツルを押し込まねばならず、左右のツルとヒンジに相当な負荷がかかるからだ。

 着せ替えメガネに、片目メガネ、鼻パッドなしメガネと、数々のユニークで斬新なメガネを世に出しているメガネ21のことだから、もちろん抜かりはないだろう。それに、単なるフルフェイス用メガネなら、他のメーカーが既に作っている。「準備中」の長さから想像するに、コロンブスもびっくりの、斬新なメガネができあがるに違いない。もしかしたら、究極の問題点を解消した「絶対に曇らないメガネ」か、あるいは「かけたままフルフェイスを被れるメガネ」かもしれない。実現したら世紀の大発明だ。
 発想の転換で、頭部に装着するのではなく、ヘルメットにマウントするのはどうだろう。最近はやりの、インナーバイザー付きヘルメットのイメージだ。帽体に固定するアタッチメントさえ頑丈なものができれば、あとは簡単なような気がする。ヘルメットを脱いでいる時用に、メガネをもう一つ常備する必要があるけれど、普段使いのメガネと共用にしなくても良い分、無理に軽量化を図らなくても構わないという利点が生まれる。

 そんな風に、あれこれ想像して楽しめるのも、それを作るのがメガネ21というメーカーだからだ。決してマイノリティを見捨てず、むしろそこからビジネスチャンスを掴もうとする姿勢が素晴らしい。虎は群れない。では、そんなメガネ21を心から応援しています。

 後日談 犬に絡む迷惑な客
 

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by tigersteamer | 2013-05-01 23:54 | オートバイ