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第三の趣味

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 3ヶ月という長い入院の果てに、やっと戻ってきたと思ったらまた再入院することになってしまった僕のタイガー900。日常生活の鬱屈とした感情は溜まる一方で、早急に代わりの捌け口を見つける必要があった。僕のストレス発散方法といえば、まず第一にオートバイ、次いで食べ歩きなのだけれど、後者にのめりこむと(あらゆる意味で)身を持ち崩すおそれがある。できればあまり金がかからず、健康も害さず、それでいて奥の深い趣味が欲しい。せっかくだから長く続けられるものだといい。敷居は高くないに越したことはない。
 まず思い当たったのが、前の職場で同僚から貰ったフルートだ。僕はこの笛という形態の楽器があまり好きではないのだけれど、このさい贅沢は言っていられない。あるものはなんでも試してみようと思った。

 ボロボロのケースから取り出して、おっかなびっくり組み立ててみた。おごそかに捧げ持ってためつ眇めつする。なにせ長いこと放置していたものだから、どこかの部品が老朽化していて、いきなり崩れ落ちても不思議はない。
 次に、まともな音が出るかは別として、とりあえず吹いてみようと口許に近づけた。その途端に異臭が鼻をついた。臭いなんてものじゃない。ベースとなる金臭さとカビ臭さに混じって、すえた汗のような臭いや、なにやら動物性の腐敗臭もする。
 仕方ないので、洗面所に持ち込んでザブザブ洗ってみた。満遍なく石鹸を塗りたくり、指の届かない奥の方はティッシュを巻いた割り箸を突っ込んでガシガシ擦る。半時間ほどかけて、どうやら臭いは消えた。さて、お待ちかねの処女演奏と参ろうか。

 ところが勢いで息を吹き込んでみたものの、まったく音が出ない。さすがはオーケストラで使われている格式の高い楽器だけのことはある。リコーダーやハーモニカとは違うらしい。しかし、それでこそ没頭する価値があるというものだ。
 近所にできたショッピングモールの中に、楽器店のテナントが入っていたはずだ。とりあえずそこで初心者用の教本を買おう。思い立ったが吉日だ。財布と車の鍵を握り締めて、さっそく家を飛び出した。

 入店するやいなや、閑そうな店員を捕まえて案内させ、目当てのものを購入した。薄っぺらい癖に妙に高い。小学生が授業で使う教材とはわけがちがうのだから、まあしかたがない。お手入れの道具も購入した。これもそこそこの値段だった。あわてて金のことを頭から追い払った。考え始めるとテンションが下がる。なにより事始には出費がかさむものだ。

 ついでに、手入れをするときの注意点をきいておこう。楽器店の店員なのだから、そこいら辺には詳しいに違いない。レジで代金を支払いながら、初心者なんですがと断った上で切り出した。店員は頷いて言った。

「ええと、まず水洗いは厳禁です。それから・・・」

 急に汗が引いたのは、店内のききすぎた冷房のせいだけではない。刺すような日差しにさえ秋の訪れを感じる、そんな昼下がり。
 

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by tigersteamer | 2012-09-01 07:17 | 雑記