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許してくれ若き日の俺

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 なん年かぶりにオートバイのカタログを買った。いや十数年か、ひょっとしたら最後に手にしてから二十年以上経っているかもしれない。
 高校時代に、当時はまだラインナップに載っていた憧れの単車達、トライアンフのSpeed Triple900や、ホンダのGB500TT、カワサキEliminator900なんかを眺めて胸を高鳴らせていた記憶はあるけれど、実際に免許を取ってからは、ミスターバイクBGやら中古車雑誌のお世話にしかなったことがない。

 今回、カタログを購入したのだって、自分で新車を買うための参考にするわけではなくて、知人へのプレゼント用だ。できるだけ安いものをと思ったけれど、1500円もする分厚いものしかなくて、断腸の思いでしぶしぶ金を払った。バッテリーとオイルの交換で大枚をはたいた後だっただけに、かなり痛い出費だ。そして、せっかく買ったのだから、くれてやる前にと思ってパラパラとめくるうちに、目が離せなくなった。

 久しぶりに最新のオートバイとインプレッションを見て、その進化に目を瞠ったのではない。200馬力オーバーのスーパースポーツにも、リッター40キロの大型ツアラーにも興味はない。特定の車種に一目惚れしたのでもないし、あれもこれもと目移りしたわけでもない。
 その逆だ。乗りたいと思えるオートバイが殆どなかった。国産車はもとより、一時期は熱烈に憧れたモトグッツィや、現在所有しているTigerの製造元であるトライアンフでさえ琴線に触れない。どうやら原因はデザインにあるらしい。流行りのスタイルや形を似せただけのモダンクラシック路線が格好良いとは思えないのだ。
 これも時の流れかと思う。じっさい、もう長いこと新しいオートバイに乗り換える意欲は失っているわけだから、今あるTiger900を大事に乗ればいいのだ。仮に新車が欲しくなったとしても、Tigerを処分する気にはなれないだろうし、さりとて我が家のガレージにオートバイをもう一台置くスペースはない。これでいいのだ。

 どうなってんだと首をかしげたのは、乗りたくないオートバイを消去法で消していったら、最後に残ったのがハーレーダビッドソンのスポーツスターだったことだ。十代の頃からヨーロピアン派で、生涯乗ることはないと思っていたハーレー。やはりクルーザータイプには食指が動かないけれど、スポーツスターになら乗ってもいい。手頃な値段に気付いて、ますます魅力的に思えてきた。
 多分、Tigerを乗り潰したら、次はスポーツスターを買うだろう。今はそのチョイスしか考えられない。ポリシーを曲げるようで、まことに、まことに不本意ながら。どうか許してくれ若き日の俺。

 

 追伸(続き)
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by TigerSteamer | 2012-03-27 01:57 | オートバイ

幻のラーメン

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 手当てのつかない残業をこなし、職場を出たのは23時を回ったあたり。もう慣れっこだが、いつものように午前様になりつつあった。福岡県地方は今年の冬一番の冷え込みとあって、雪こそ降らないものの息が白い。早くも痛み始めた指先を、暖気中のオートバイのマフラーにかざしながら、もっと厚着をしてくるべきだったと後悔した。

 寒さを我慢して、自宅まで一気に突っ走ってもいいが、こんな夜には定番のアレがいい。学生時代は「ラーメンライダー」と称して、冬の極寒の中をオートバイに跨り、わざわざ遠くのラーメン屋まで足を延ばしたものだ。寒さと空腹感が、一杯のラーメンをより美味しくしてくれる。

 ヘルメットのシールドを下ろしながら、早くも折れそうな心に喝を入れる。えいやっとばかりにシートをまたいだ。帰宅途中にあって、この時間まで開いているラーメン屋といえば2軒しかない。味はどちらもオススメできないが、ラーメン屋には違いない。家路と逆方向に足先を向ければ、美味い店はいくらでもあるのだけれど、この寒さではその気になれない。空腹が解消され、ついでに暖をとれれば、この際ウマいマズいはどうでもいいのだ。

 一軒は、福岡では最も有名なラーメンチェーン店だ。K龍という、全ての支店でまったく同じ味を提供することをモットーとしているような店・・・一説によれば、パックに入ったレトルトのラーメンを出すとのことで、これはどうやら真実らしい。いつ行っても客は多いが、それは店内の壁一面に備えてある漫画が目当てなのであって、実際はほとんど回転していない。ラーメンを食べにというよりも、漫画喫茶として使用されているむきがある。

 もう片方の店は、いつ行っても客がいない。それほど不味いわけでもないが、美味いわけでもない。もっと客を入れる秘訣を一つ挙げるとしたら、それは味を向上させることではなくて、K龍さんを見習って漫画を沢山置けばいい、とアドバイスしたくなるような店だ。もっとも、この店に漫画が置いてないのには理由がある(んじゃないかと思う)。二軒隣に漫画喫茶があって、おそらくそこと経営者が同じなのだ。その証拠に、漫画喫茶でラーメンや餃子、チャーハンの類を頼むと、そのラーメン屋と同じものが出てくる。

 そしておそらく、美味くもないラーメンだけを食べに行くよりは、漫画があったほうがいいという理由で、このラーメン屋はますます寂れていくのだ。サイドメニューの豊富さと、あえて漫画をおかない姿勢で差別化を図っているのだと思う。なんとなく経営者のやる気のなさが窺える。間に挟まっているのはスナックなのだけれど、ひょっとするとそこも同じ経営者かもしれない。両隣と同じく、とても流行っているようには見えない。

 しばし迷ってから、僕は後者に寄ることに決めた。漫画を読む気にはなれなかったし、仕事帰りで疲れていることもあって、味が同じレベルなら客が多い店は御免こうむりたかった。

 思ったとおり、客は僕一人だった。
 カウンターの向こうで、見るからにやる気のなさげなアルバイトの青年が、それでも一応はラーメン屋稼業であることを自覚してか、空回り気味な大声で「いらっしゃいませェ!」と怒鳴った。
 入り口から入ってすぐのテーブルにつき、メニューも見ずにラーメンを頼んだ。復唱したアルバイトが踵を返すのを見送って、煙草に火をつけた。食事のマナーにうるさい人や、ラーメン好きから言えば噴飯ものには違いないが、流行っていない店にはそれなりのいいところがある。なにより、周りに気兼ねせずに煙草が吸える。

 暫くして目の前に出されたラーメンは、普段その店で出されるものとはどこかが違っていた。
 スープを飲もうと口を近づけた時に、ぷんと鼻をついた匂いで、その原因がわかった。トンコツラーメンを嫌いだという人の殆どは、その独特の匂いが苦手であるらしい。普段トンコツしか食べていない人間には、今ひとつその臭さというのが意識できないのだけれど、言われてみれば、僕も初めてトンコツラーメンを食べた時はそう思ったような気がする。
 今夜僕が食べたラーメンからは、その匂いがした。思わず懐かしく感じてしまう反面、暗澹たる気分に陥った。要するに、スープが煮詰まっていたのだ。

 僕はすぐさま、白飯を追加注文した。口にする前から予測できる塩っ辛いスープを、飯で中和しながらかき込もうと思った。

 

 無理に味わう必要がないところも、流行っていない店のいいところだ。(続き)
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by TigerSteamer | 2012-03-06 23:22 | 食べ物一般