カテゴリ:ツーリング飯( 10 )

2台のラビット

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 ツーリングの帰りにカフェ・ド・パリへ寄ったら、店の前にピカピカのラビットジュニアが置いてあった。思わず唸った。聞けば、お客さんからの預かり物を、店の看板として使わせてもらっているとのこと。機外極上で、普段使いに耐える実働車らしい。エンジンの音を聞かせてもらったけれど、確かにコンディションは良さそうだ。2ストローク特有の破裂音から、こころなしか角がとれて丸くなっているような気がした。

 歳をとるごとに、誰にも共感してもらえない自分ルールが増えていく僕にも、このラビットなら許せると思えるところがある。マスターは年季の入ったモトグッツィのマニアなのだけれど、愛車のV11スポルトを店表に出すことはない。オートバイ乗りが集まるお店ではあるけれど、ライダーズカフェではないからだ。そこであえてラビットを看板として提供した客のセンスが素晴らしい。古ければ良いというものではないし、お洒落なら良いというものでもない。

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 糸島市二丈深江の、海にほど近いなだらかな丘の上に『カフェ食堂 ノール』はある。木造りのシンプルな建物で、海を望む一角に大きな窓がこしらえてある。北欧情緒の漂う海辺のレストラン・・・というよりは、漁師小屋のような佇まいだ。凍てつく潮風に凍えながら屋内に足を踏み入れると、そこでは漁閑期の漁師たちがストーブを囲んで談笑している、そんな光景が思い浮かぶ。
 古い建物ではないので塗装は青々としているけれど、ところどころ日に焼けて色褪せた外壁が風情を滲ませている。ここで長いこと店を構えていると、さらに味わい深くなるのではないか。十年後、二十年後も、この店に通う自分を想像して、なぜだか逆に懐かしい気持ちになった。

 僕の勝手なイメージの中では、使い置かれて錆のまわった漁具が立てかけてあるあたりに、1台の錆びついたラビットマイナーが置いてあった。カフェ・ド・パリの物よりも、さらに年式が古い。いかにも、いつの日からか使われなくなって風化した様相だけれど、店の名前で検索した画像には違うスクーターが写っていたから、こだわった末に収まったアンティーク品だということがわかる。
 この朽ち果てたラビットがまた、細やかで綿々とした人の営みを感じさせる役割を担っている。身を切るような外気と、温もりの篭った室中との対比を際立たせているようにも感じる。もしこれがラビットではなく、小粋なイタリアンスクーターの類だったとしたら、今とは違う感慨を抱いたに違いない。

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 オーナーはカワサキのW3乗りなのだけれど、店内にあってオートバイを匂わせる要素は抑え気味に、客がライダーであれば気付く程度に留めていた。料理はもちろん美味しかった。品数は多くないけれど、その分ひと品に丹精がこもっている。もてなす側の人柄が表れているようだ。

 冬場はオフシーズンだと思われがちだけれど、こういった店と数多く知り合うと、寒くてもオートバイで出かけてみようかなという気分になる。暖をもとめて走るうちに、いつしか冬こそが絶好のオートバイシーズンになる。

カフェ食堂 ノール(http://www.nord2013.jp/menu.htm
 

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by TigerSteamer | 2015-01-03 03:43 | ツーリング飯

行きて帰りし物語

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<前回 死神ライダーを参照のこと>

 これにて”隠れ家の探索”3部作は最後になる。前回は図らずも起承転結の転にふさわしい、あっと驚くトホホな幕引きとなったわけだけれども、実は本編ではカットされた最終章の導入部分も用意されていた。

 僕が、ゆふそらの駐車場にオートバイを乗り入れた時、お店の前には真っ赤な4WDが停まっていて、ちょうど女性が2人降りてくるところだった。僕の姿を認めると、1人は店の入り口へと続く斜面を駆け上がって行き、もう1人は車の傍に残った。
 落ち葉を踏む足音以外は、物音一つしない。静寂に包まれた喬木の森と北欧風の建物、その前に佇む若い女性。どことなく現実離れしていて、童話の世界に紛れ込んだような気がした。このシチュエーションだと、僕の役どころは何だろう。一夜の宿を求める旅人だろうか。
「ひょっとして、今日はお休みですかね」
「ごめんなさい、金曜日から月曜日までが営業日なんです」
 女性は強張った笑顔を浮かべ、申し訳なさげに頭を下げた。
 その日は火曜日だった。薄暮が閉店していたショックが尾を引いているせいか、自分でも驚くくらいあっさりと諦めがついた。運が悪い時はこんなものだ。例によって事前に調べておかなかった自分が悪い。僕のツーリングには、よくあることだ。
 連れの女性が、こちらへ駆け下りてくるのが見えた。2人並んで立つと、とてもよく似ているのがわかる。姉妹なのかと思ったけれど、少し歳が離れているような気もする。母娘かもしれない。
「よかったらこれ・・・」
 娘さんと思しき女性は、手にした2つの小さな包みを僕に差し出した。

 ピンときた。エルフの焼き菓子だ。
 トールキンの『指輪物語』で、エルフの郷ロスローリエンの女主人であるガラドリエルが、旅の仲間に餞別を渡すシーンに違いない。ということは、娘さんがアルウェン(娘じゃなくて孫だっけ)で、僕がアラゴルン・・・は美化しすぎだ。ちょっと悔しいけれど適役はドワーフのギムリ(実際はオーク)あたりかもしれない。ずんぐりむっくりな体型もぴったりだし、間違っても後に夫婦になったりはしないだろうし。ただ残念ながらドワーフは馬には乗れないけれど。
「またお待ちしています」
 次の休みは紅葉見物をしに耶馬渓方面へ行くつもりだった。九州の秋は短い。のんびり構えていると見頃を逃してしまう。それでも、もう一回だけ。バックミラーで2人の姿を確認しながら、もう一度だけ足を運んでみよう思った。ラスクのお礼を言わなくてはならない。




 ガレットという料理を初めて食べた。蕎麦粉をクレープのような平たい生地にして、チーズやハムなどを包んで焼いたブルゴーニュ地方の郷土料理だそうだ。僕も世のオヤジどもの例に漏れず、このての婦女子が好みそうな食べ物をハナから馬鹿にしてかかる習性がある。きっとギムリも同意見に違いない。しかし、食わず嫌いだったと気付かされた。見た目よりもボリュームがあるし、とてもユニークで、食べていて楽しい。もっとチーズが山のように盛ってあって、コッテリした味付けだとなお良いような気もするけれど、生地が薄いから食べにくくなるだろう。品が悪くなるのも確かだ。ピザのようにクルクルっと巻いて、端からかぶりつこうと試みて失敗した。ここは上品に、ナイフとフォークで切り分けるのが無難だ。ジャムやマーマレードなどを塗って焼き菓子にすることもあるらしいけれど、残念ながら、ゆふそらのメニューには載っていなかった。
 お土産にラスクを買った。美味しいのは前回の訪問で確認済みだ。ラスクをお勧めできる店というのは珍しいかもしれない。パン屋のレジ横に並んでいる、小銭消費用のオマケ商品ではない。カリカリして香ばしいくせに、しっとりもしている。木の実が練りこんであるせいだ。そして、しっかりと甘い。

 勘定を済ませて店を出た時、デザートを食べ忘れたことに気付いた。垂れ目嬢はなんと言うだろう。笑って許してくれるだろうか。どうもそんな気はしない。食べに戻ろうかと踵を返したところで、思い直した。ガレットのバリエーションも全部試していないし、パンも手つかずだ。それに、せっかく見つけた隠れ家を無駄にするのはもったいない。3部作で終わりだと思っていた物語に、続きがあるケースもないわけではない。『ゲド戦記』の4巻が出たときは誰もが驚いた。
 時期的にオートバイで行くのは、もう難しいかもしれない。よって、次回「デザートの冒険」は来春あたりを予定している。ガラドリエル様にお会いできる日が待ち遠しい。
 
店舗情報
ゆふそら
大分県由布市湯布院町川西字山口1750ー136

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by TigerSteamer | 2014-12-19 17:26 | ツーリング飯

別の意味でスパイシーだった

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使った金額1,000円~1,999円
 穏やかな陽射しと潮風、雲ひとつない空。キラキラ輝く海、寄せては返す波の音。食欲をそそるグリーンカレーの香り。そして背後でギャン泣きする子供。

「ママの嘘つき! こんなのカレーじゃないいいいいい!」
「カレーやんね! マー君が食べんとなら、お母さんが食べるけんね。後でお腹すいたって泣いても知らんよ!」

 のどかだなー(泣
 
店舗情報
ドゥワンチャン
福岡県糸島市二丈深江2129−18

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by TigerSteamer | 2014-09-11 22:00 | ツーリング飯

僕がツーリングクラブを辞めた理由

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使った金額1,000円~1,999円
評価(星4つ)
 今回の記事に関しては圧倒的マイノリティとしての自信があるので、言葉には気をつけなくてはならない。さもないと総スカンをくらう恐れがある。
 なにせ、総勢50人ほどのツーリングクラブの中にあって、このテのイベントが嫌いだと公言していたのは僕だけだったのだから。"地球を人口100人の村に喩えたら"という有名な小噺(?)があるけれど、さしずめ僕はアマゾン流域に生息する小数民族以下の存在で、100人の中にはカウントされていなかった。下手をしたら類人猿並だった。声を大にして主張しても、誰も耳を貸さなかった。サル語を理解する者がいないせいだ。単に空気が読めていないだけで、内心では僕と同じ考えを持っていた者はいたのかもしれないが、それにしてもクソクラエだ。

 僕が嫌いだというのは、オートバイの撮影会イベントだ。比較的メジャーで記憶に新しいものに、阿蘇の草千里で催された「草千里09」がある。巷では、これの小規模なものが日曜日ごとに催されている。主催者は主にオートバイ雑誌で、撮った写真は漏れなく読者参加型イベントのレポート記事として、数ページ渡って巻末に掲載される。売れていない雑誌ほど扱いが大きくなる傾向はあるけれど、平均的な一人当たりのスペースは2cm×3cmで、プロフィール欄の誤字脱字が異様に多い。
 カメラマンが大勢で被写体を囲む撮影会ではなく、大勢の被写体希望者を数人のカメラマンが撮影するわけで、長い長い行列に並ばなくてはならないから、さっさと撮ってもらって美味しい物でも食べに行きましょうというわけにはいかない。僕のこれまでの人生など無駄な時間の集積所ようなものだから、いまさら数時間くらい浪費したところで何ということもないのだけれど、なぜか滑稽なくらい"時間を無駄にしている感"が募る。

 その理由を考えるに、列に並ぶのが嫌というのは確かにあるかもしれない。たとえば、いかに料理が美味しかろうと、ありつくまでに延々と並ばなくてはならない店なら敬遠しがちになる。ただし、こう見えて食べ物に対する執着心は並ならないので、どうしても食べてみたいときは、並ばないでも良い時間帯を探すか、あるいは雨天を狙う。場合によっては、気長に人気が廃れるのを待つのもありだ。
 そして何よりも、写真に撮られるのが嫌だという気持ちが強い。嫌なことを列に並んでまでするのは、さらに嫌だ。最近はますます頭頂部の白骨化が進んできているので、フラッシュが当たる角度によっては(特に夜間は)、まるで後光が差しているかのように頭皮が反応する。そもそも、写真に撮って貰いたいと思えるほど愉快な御面相でもない。オートバイにしたところで、あまり洗ってやる機会がないので汚れ放題だ。長年に渡って酷使してきたせいで、あらゆるところに塗装剥げや小傷がある。ライダー共々、被写体に向いているとは言い難い。

 ライダーは写真を撮られるのが好きだというステロタイプがあるのかもしれない。巷には、オートバイで来店した記念に写真を撮ることを、売りのひとつにしている店がある。画像をホームページに載せたりアルバムに保管したりして、ライダーを呼び込む宣伝材料にするわけだ(必ずしもビジネスライクな考えに基づいているわけではないだろうけれど)。僕はこういった店も、あまり好きではない。だったら行かなければいいだけの話なのだけれど、ツーリングの旗竿代わりに丁度良いのもあり、同好の士と交わりたい気持ちもないではなく、またそういった店で他の客のオートバイを眺めるのは結構楽しいので、ときどき利用する。
 初めて店を訪れる時は、何と言って写真撮影を断ろうか気が気ではない。すんなりと引き下がってくれる場合もあるし、やたらと食い下がってくることもある。中には、遠慮したい旨を伝えた途端、興味を失ったかのように扱いがぞんざいになる店もある。

 ただし、必ずしも嫌だというわけではない。非常にレアなケースだけれど、ごくごく稀に、撮られても構わないと思える店がある。むしろ進んで被写体になりたい。たまたま利用しただけではなくて、その店に縁があって訪れた証拠に、しっかりと印を刻んで帰りたい。結局は店の雰囲気と、そこで働く人達の人柄なのだと思うのだけれど、言葉にしようとすると、その境界線がよくわからなくなる。陳腐な形容詞しか出てこなくなる。
 この茗ヶ原茶寮は、記念撮影を快諾した数少ない店のうちの一軒だ。もし店を訪れることがあったら、僕の言う境界線を探してみてほしい。

 ただし、だからといって、写真うつりが良くなるわけではない。できあがりの写真を見ると必ず後悔する。しみじみと被写体には向いていないことが実感できて、非常に残念だ。
 
店舗情報
茗ヶ原茶寮
熊本県阿蘇市山田茗ヶ原1828-4

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by tigersteamer | 2014-01-26 11:30 | ツーリング飯

だご汁

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 昨日の夜は久々に繁華街をブラブラした。その結果、しみじみ実感したことがあるので、ここで声を大にして報告しようと思う。
 北は北海道から南は沖縄、日本全国津々浦々を転々としてきた僕が言うのだから間違いない。 福岡は食べ物が美味しいとか、人情にあついとか、博多っ子は日本人の思い描く男らしさの理想像だなんて話を耳にすることがある。根拠とするところには諸説があるようだけれど、食べ物が美味しいのは福岡に限ったことではないし、博多っ子の男らしさは女々しさの裏返しだ。

 そんなことより、福岡が誇れる事がある。それは女性の美しさだ。福岡の女性は綺麗だ。容貌は全国でもトップレベルに入る。 見目麗しく、芯の強さもあり、なお聡明でエネルギーに溢れている。
 福岡県南部から熊本県一帯で用いられる言葉に「おっぺしゃん」がある。時として心の美しい女性のことを指すこともあるようだが、本来の意味はズバリ、不細工のことだ。ちなみに、おっぺしゃん→おっぺしゃんのだご汁(かなりの不細工)→おっぺしゃんの冷だご(稀にみる不細工)の順で適用する。「だご」というのは団子で、だご汁はありていに言えば「すいとん」のことだ。ほぼ小麦粉のみを使って作られる。月見団子のような真ん丸ではなく、手でこねて平たくまとめるので、形はいびつで均整がとれない。主に味噌仕立ての汁に野菜や根菜と一緒に入れて食す。だご汁の「だご」は滑りを帯びていて弾力があるが、火の通りが悪いとネチャネチャして食感が悪く、冷えると固くなる。これを女性の比喩として用いるのは失礼だと思われるかもしれない。
 全国レベルに照らすなら、おっぺしゃんが平均的な容姿で、だご汁以下は女性がユーモアを交えて謙遜する時に用いる言葉だ。実際には殆どいない。ごくごく稀であり、おっぺしゃんの冷やだこは稀有な存在として讃えられる。決して悪口などではない。そこにいるだけでファンタジーなのだ。それほどに九州地方の女性は美しい。
 これは福岡県だけではなく、福岡近県、ひいては九州一円に言えることだが、対するに男性の美的レベルが著しく低いのも特徴だ。長い歴史の中にあって、男性が強いてきたコンプレックスの裏返しとも言える男性上位社会の裏側で、女性は自らの武器として美しさを磨いてきたのに違いない。

 ・・・とまあ、女性の話は眉に唾して読んでもらって結構だ。僕の主観的な意見で根拠はない。
 話は変わるけれど、だご汁の話をしたら無性に食いたくなった。今年の冬は、オートバイで巡るだご汁の旅なんてのはどうだろうか。あまりに素朴すぎて、だご汁が美味い店というのを聞いたことがないのだけれど、探せばきっと驚くような発見があるに違いない。同様のことは、ご汁(長崎県の郷土料理)や、冷や汁(宮崎県の郷土料理)にも言える。九州全土を駆け回って究極の郷土料理を探し求めるのは楽しいだろう。
 なんて、くだらないことに延々と思いを巡らせながら、結局はいつものようにオートバイと食べ物のことに辿り着く。布団の中で微睡みながら、秋の夜長はしんしんと更けていく。
 

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by tigersteamer | 2013-10-18 01:41 | ツーリング飯

sol(太陽)

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 ずっと前から薄々気付いてはいたけれど、僕は本物のアホらしい。
 3連敗だ。いや、4度目の正直と言うべきか。以前にここに書いた夜明中町のアウローラへ行き、定休日に泣かされて帰る、ということを三たび繰り返した。毎週月曜と金曜が休みだから、他より少し多いのは否めないけれど、それを前もって把握しておきながら、7分の2の確率に引っかかり続けるというのは尋常じゃない。計画性は皆無であり、さんざんカムアウトした方向音痴人見知り思い込みの激しさと合わせて、とてもマトモな社会生活を送れているとは考えられない。自分の両肩を掴んでガクガク揺さぶりながら、「大丈夫か、本当に大丈夫か」と大声で確認したい気持ちで一杯だ。

 そろそろ良い頃合いじゃないかと思ったのだ。初めて店を訪れたのが8月の上旬だ。あれから1ヶ月以上経った。前回はアイスコーヒーだけだったから、本格的なツーリングシーズンを前に、もう一度足を運んでメニューを確認しておくのもいい。パフェを置くべきだとアドバイスしたのを憶えておられるだろうか。蒔いた種が芽を出しているかどうか、確認する意味もあった。
 ツーリングライダーの甘い物好きは、ライダーとしての適性と言ってもいい。言わば体質の問題だ。なにせ、オートバイに乗っている間はアルコールを摂取できないのだから、並の飲んだくれがオートバイを趣味にする筈がない。必然的に下戸で甘党が多くなる。もしくは飲みたいのを必死に我慢して、宿や自宅へ辿り着いた後の一杯を楽しみにオートバイに乗るという、普通に飲むのでは飽き足らなくなった末期的な輩のどちらかだ。

 非日常を満喫するという趣もある。普段は眉間にシワを寄せて仕事に勤しんでいる中年男性が、たまの休みにオートバイで出かけ、身も心も解放される。童心に帰る。どっちが速いかとか、音がどうだとか、スタイルがかっこいいかとか、おおよそ大人気ないことに夢中になる。そうした非日常の最右翼であり、普段の生活から最も遠いところに位置するのがスイーツなのだ。ゆえに多くのツーリングライダーは、非日常の〆にソフトクリームを食す。小洒落たデザートの類ではなくソフトクリームやパフェに偏るのは、働く男の発想の貧困さが由来している。
 考えてみれば、小粋なイタリア人はスーツ姿でジェラートを食べるし、アメリカの治安を守るポリスメンの主食はドーナツだ。それを食べるのに恥や衒いは必要ない。女子供の食べ物と決めつけ、暗黙のうちに恥ずべき行為と見做しているのは日本人だけだ。また、単調になりがちなルーティンに僅かなりと彩りを添えるため、ソフトクリームを活用する人もいる。詳しくは知らないけれど、血糖値をコントロールするのにいいらしいのだ。

 と、そんなことはどうでもいい。意外にもおやじライダーとソフトクリーム、パフェの相性が悪くないのは周知の事実であり、僕が説明するまでもない。肝心なのは、アウローラが大分及び阿蘇方面ツーリングのアタックキャンプとして機能するかどうかだ。日田といえば、近県在住のライダーとしては真っ先に一品街が浮かぶけれど、あそこは待ち合わせ場所であって、腹ごしらえをする場所ではない(関係者が読まないことを祈る)。

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 ランチは週替わりで、AとBの2コース。今回はタイカレーのセットを注文した。まろやかな味わいで、なかなかに美味い。前回の来訪時、奥さんの顔を見た瞬間に、この店は期待がもてると直感した。今回もまた間違いはなかった。
 これは余談だけれど(例によって全編余談なのだけれど)、僕は作る人の顔を見て料理の美味い下手を予想することができる。的中率は100%を誇る。これは生まれついての才能であり、超能力と呼んでも構わないと思っているのだけれど、残念ながら実生活の役に立ったことはない。戯言と読み飛ばしてくれて構わない。また機会があれば記事にすることもあるだろう。

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 ランチセットのデザートとは別に、ケーキのセットを注文した。その結果、しみじみと実感したことがある。梨という果物は実に不思議だ。ケーキと並んで果物が出てきた場合、どちらを先に食べるべきか迷う。甘味がお互いを打ち消し合うからだ。ほとんどの場合はケーキを後に、果物を先に食べるだろう。ところが、この日に食べた梨は負けていなかった。ケーキがぐっと甘さを控えていて、梨は「品種改良の終着点」とまで呼ばれる糖度の高い秋月梨だったのもあるだろうけれど、交互に口にしても遜色ない味わいで、邪魔しないどころか相手を引き立てている感すらある。初めて飲んだ梨ジュースが、これまた秀逸だった。枝から捥いだ瞬間から急速に味が落ちていく梨を、一切の混ぜ物なしで提供する。梨農家でなければ出せないメニューだ。

 僕は己の不見識を恥じた。梨園の高笑いが聞こえそうな気がする。アップルパイのような焼き菓子にしたてるとか、ぐつぐつ煮込んでコンポートにするとか、色々と想像して楽しんでいたのだけれど、そんな考えは消えてなくなった。梨はそのままか、ジュースにして食すべきだ。実際のところ、アウローラではパフェをメニューに加える予定はないそうだ。当たり前だ。大賛成である。パフェのデコレーションに使うだなんて一種の冒涜だ。
 決めた。ややもするとメインになりかねないけれど、今後はここをツーリングの中継地とする。願わくば、夜明けと共に旅路を照らす太陽とならんことを。

※ 勘違いしてしまいそうだけれど、一枚目の画像にある道路に面した扉は裏口なのだそうだ。本当の出入り口は横手にあるので、お間違えなきよう。(間違えた人より)
 

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by tigersteamer | 2013-09-21 23:54 | ツーリング飯

日帰りソロツアラーのジレンマ

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使った金額1,000円~1,999円
評価(星3つ)
 日帰りソロツアラーは食事の面で報われないことが多い、というのは前にも書いた。さんざん走り回った挙句、コンビニの軒先でカップラーメンを啜ったりというのは誇張でもなんでもない。そこいらを踏まえた上で、最近では通称ラーツー(カップラーメン ツーリング)という、自宅から湯を沸かす道具を持参して、見晴らしの良い場所でカップ麺を食べるのが目的のツーリングさえある。
 だが、日帰りソロツアラーの食事に不遇をもたらす理由は、その限りではないのだ。

 熊本の内館温泉に、百年の歴史を持つ「いまきん食堂」という店がある。看板メニューは「あか牛丼」で、その名の通り、名産である赤牛の肉を使った牛丼だ。
 何度もテレビで紹介されている有名店だが、一見どこにでもある定食屋さんである。繁盛している割にキャパシティが小さいので、平日でも行列ができていることが珍しくない。ツーリングライダーとしては一度は食べておきたいと思う反面、待ち時間を考えると二の足を踏みがちになる。ただ、ソロツーリング(おひとり様)の場合だと、長い行列をすっ飛ばしてカウンターの端っこに案内してもらえることがあるから、テーブル席の客ほどには待たずに済む場合もある。

 この「あか牛丼」だが、人それぞれ好みがあるので一概には言えないけれど、看板メニューとして持て囃されるほど美味いものではないように思う。あっさりした味付けには好感がもてるけれど、肉自体は硬くはないけれど柔らかくもなく、とりたてて旨いという実感は湧かない。ボリューミーではあるけれど、あくまで丼物の範疇である。素材の味を活かすなら他の食べ方をするべきだ。
 ただ、ご飯の上に牛肉を敷き詰め、真ん中に温泉卵を落とした見た目はインパクト満点だし、食べ応えもある。見るからにハイカロリーで、引き続き午後も走り回ることを考えると、ツーリングの昼食としてはうってつけだ。これがオージービーフなら価値はないけれど、褐毛和種(あかげわしゅ)は熊本と高知固有の肉牛なのだそうで、行った土地の名産を食べるわけだから、さらにポイントが高い。加えて創業百年ともなれば、なにやら名所旧跡を訪れたような気さえする。一杯1200円という値段もちょうど良い。安くはないが決して高過ぎず、普段より良い物を食べている気分に浸れる。

 さて、この「いまきん食堂」で昼食をとるにあたって、日帰りソロツアラーとしては非常にやるせないことが一つある。「あか牛丼」の金看板を背負っているわけだから、それがオススメなのには違いないのだけれど、地元民や古くからの常連客に言わせれば、いちばん美味いのは680円のチャンポンなのだそうだ。
 遠方にお住まいの方には馴染がなかろうと思うので、あえて説明しておきたい。チャンポンと言えば長崎が有名だけれど、これは全国に展開している外食チェーンのリンガーハットによるところが大きい。チャンポン自体は、九州全土で見受けられる、豚骨ラーメン以上に珍しくない食べ物だ。
 要するに、チャンポンが美味い店というのは、品揃えの良いコンビニ並みに珍しくない。とりたてて褒めるところがない店を指して、あそこはチャンポンが美味いよ、などと言ったりもする。

 せっかくなら、その店でいちばん美味しいメニューを頼みたい。いまきん食堂の場合は、混じりっ気なしにチャンポンが美味いのかもしれない。だからと言って、わざわざ阿蘇まで来ておいて、あえてチャンポンだけを注文する気にはならない。ちょくちょく通える距離に住んでいるなら、一度くらいはいいかという気にもなるけれど、実際は半年に一度行くのがいいところだ。せめて2人旅なら、あか牛丼二人前とは別にチャンポンを一杯だけ注文して、半人前ずつ分けることだってできる。
 ただ単に食べ切れるかと言うことなら、食べ切れる。それは断言できる。あか牛丼の大盛とチャンポンを注文して、空いたスペースに肉味噌おにぎりを詰めるくらいは平気だ。コンディションさえ良ければ、あか牛煮込み定食もいけるかもしれない。

 ただ、それをやってしまうと、午後は襲いくる睡魔と闘わざるを得なくなる。これは深刻な問題だ。阿蘇はオートバイツーリングに適した道が沢山ある反面、死亡事故も多い。景観に気を取られた結果の事故が殆どだろうけれど、半分くらいは居眠り運転が原因だと確信している。昼寝でもするのが一番だけれど、日帰りソロツアラーとしては、食後にゆっくり休憩する暇があったら1mでも長く走りたい。
 よって、いまきん食堂のチャンポンを食べることは、当分の間なさそうだ。実にやるせない。日帰りソロツアラーだからこそのジレンマである。
 
店舗情報
いまきん食堂(赤牛丼)
熊本県阿蘇市内牧−366

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by tigersteamer | 2013-05-24 03:04 | ツーリング飯

看板娘

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使った金額1,000円未満
評価(星4つ)
 日記を遡ると、初めてママドックを訪れたのは2008年の9月7日とある。ひと昔のような気がするけれど、あれからまだ5年も経っていない。ずいぶん長い時間が過ぎた気がするのは、5年では収まり切らないくらい色んなことがあったからだ。その間には、疎遠になった友人もいるし、新たな出会いもあった。どんなに会いたくても、もう二度と叶わない人もいる。

 当時の僕は、地元のミニコミ紙に寄稿するのが目的で、旨いホットドッグを探して県内を走り回っていた。口コミやインターネットの情報をたよりに行き着いたのは、志賀島にあるピンク色のホットドッグワゴンだった。まだ、その場所で営業しはじめてから日が浅かったはずだ。ワゴンの正面にはMama Dogと書いてあるのに、カタカナ表記はママドッグではなく、ドック。どうでもいいようなことが気になったのだけは、しっかりと憶えている。
 この日、何を食べて、店のママさんと何の話をしたのか、思った通りの味だったのか、それとも期待外れだったのか、一切の記憶がない。ゆっくり味わうどころではなかった。なんの因果か一緒に店を訪れることになった883乗りの女性に、すっかり心を奪われていたからだ。人見知りが激しくて、滅多に一目惚れはしない質だから、自分でも驚いた。これは運命かもしれないと思いつつ、何のアクションも起こせないまま、3年ほど淡い想いを抱いて恋は終わった。彼女も今では立派な人妻だ。

 去り際に、オートバイ仲間に宣伝しておきますと伝えた。志賀島にありながら、一番の得意になるべき海水浴客を上手く取り込めていないように感じたからだ。もっとも、本気で売り上げに貢献しようとしたわけではない。その逆で、できれば隠れ家的な店として、胸の内に大事にとっておきたかった。しかし同時に、そうはならない予感もあった。事実、店の評判はオートバイ仲間の間で瞬く間に広まった。もともと福岡県有数のツーリングスポットだから、注目されるのは時間の問題だったとも言える。志賀島を根城にする常連ライダーの憩いの場として、あるいはツーリングライダーの旅の目的地として、ママドックの存在は着実に定着していった。
 ママドックの成長を助けたのは、そこに出入りする有志たちだ。僕もその一人だと言いたいところだけれど、気が向いたときに行く程度で、訪れるたびに大きくなっていくのを、ただ口をぽかんと開けて眺めていただけだ。

 そう、初めてママドックを訪れた時に、はっきり記憶に残ったことが、もう一つある。店の周りをチョコチョコ走り回っていた女の子。ママさんの一人娘で、ことなちゃんという。たしか小学校に入学する前だから、4つか5つ。幼稚園には行っていなかったはずだ。お母さんのお手伝いと、お店やさんごっこが半分ずつ。ウェイトレスの仕事にまだ慣れておらず、お釣りの計算が上手くできないようだった。ただ、看板娘としては一丁前で、照れ隠しの笑顔をふりまきながら、客と店の間を何度も行ったり来たりしていた。

 もし、ママドックと、ママドックを取り巻く環境と、そこに関わった沢山の人達が一つの物語になるとしたら、それは男勝りなママさんの苦労話ではなく、ママドックに足を踏み入れた客達のオムニバス形式でもなく、この看板娘の成長譚にしてほしい。大人たちは皆、歳をとりすぎている。オープンしてたったの5年。お話はまだ、始まったばかりだ。

4/23 追記 そうそう、初めての時の思い出をもう一つ。四枚目の画像に写っているパイプ椅子を、尻の重みで押し潰したんだった。あれから5年、椅子一脚分くらいの売り上げには貢献できたかしら。
 
店舗情報
ママドック
福岡県福岡市東区志賀島(大字)2013

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by tigersteamer | 2013-04-21 02:56 | ツーリング飯

ドアラの中身

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使った金額1,000円未満
評価(星3つ)
 ガチャピンの中の人を云々するのは興ざめだし、いるのを前提でいないと言った方が絶対に楽しい。いつもの人とは違うんじゃないかと口にするのは無粋だけれど、各人が心の中で邪推? する分には自由だし、面白い。
 スキューバにスノーボード、スカイダイビングにモトクロスその他諸々、そのどれもがプロ級の腕前ときた。これだけ派手にやってくれれば、見ている方も暗黙の了解で、わざとらしくも、あえてつられてあげるという楽しみ方もある。
 これがガチャピンではなくて、中日ドラゴンズのマスコット、ドアラだと話は少し変わってくる。試合の合間に見せる派手なバク宙と、ほかのマスコットとは違う独特な動きが特徴のキャラクターだ。
 ガチャピンと違って様々なスポーツに挑んだりするわけではないから、中の人が入れ替わる必要はない。しかし逆に言えば、入れ替わっていたとしても傍目からはわからない。バク宙は失敗続きで、グラウンドに叩きつけられている姿を頻繁に目にするから、とっくの昔に身体はボロボロになっていても不思議はない。あれだけ特徴のある動きだと、中のスーツアクターにとっては逆に演じやすいのではなかろうか(そんなことないか)。もしドアラ用員が2〜3人いて、知らぬ間に入れ替わっていたとしたら・・・。
 どうということはない。中身が誰だろうが、ドアラはドアラだ。いちファンとして応援するのにやぶさかでない。

 ガチャピンとドアラの話は、今回のテーマと直接の関係はない。長いながーい・・・余談だ。
 福岡と佐賀の県境にある三瀬峠に、オートバイで遊びにいくたびに立ち寄るうどん屋がある。暖かくなったので久々に足を伸ばしてみたら、店の周囲に以前はなかった幟が立っていて、なんとなく(勘違いかもしれないが)掘っ建て小屋のような店舗も綺麗になったような感じがした。もともと注意深く見ているわけではないから、何が違うとは言いにくい。ただ、細かいところがチョコチョコ違うような気がする。
 思い切って、店員に違和感の正体を尋ねてみたところ、あっとビックリ、店のオヤジが別人だった。なんでも、昨年の暮れにオーナーが交代したのだそうだ。冬場は道路が凍結するから、オートバイでは来にくい。遠ざかっている間に中の人が変わっていた。

 ・・・だからどうしたと言われれば、どうもしない。前のオーナーからレシピこみで店を買い取ったらしいから、細かいサービスは違うものの、大した差はないように感じる。うどんの味が落ちたとは思えない(通が食べると違うのかもしれないが)し、これからも今まで通りに通うつもりだ。

 もとから具として載っている三瀬鶏の細切れ肉のほかに、ゴボ天(ゴボウの天ぷら)をトッピングして、唐辛子をしこたま振りかけて食べるのが好みだ。黒々としていて脂の浮いたスープは、下界と温度差のある山の気候によくあっていて、寒い季節に体を芯から暖めてくれる。夏場は汗をダラダラかきながら啜るのもいい。食べ終えて店の外に出た瞬間に、ひんやりした涼を感じる。
 うどんだけでは足りないなら、かしわ飯を一緒に注文してもいい。こちらは作り置きで数に限りがあるから、午後の遅い時間だと売り切れていることがある。
 
店舗情報
地鶏うどん・そば 峠屋
福岡県福岡市早良区曲渕(大字)1195

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by tigersteamer | 2013-04-05 12:47 | ツーリング飯

阿蘇の名バイプレイヤー

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使った金額2,000円~2,999円
評価(星4つ)
 基本的にソロツーリング志向で、一人で勝手気ままに走り回るのが好きだ(集団行動が苦手なだけだ)。しかし、一人旅は気楽な反面、どうしても疎かになってしまいがちな点がある。そのひとつが食事だ。

 前もって予定を組むわけでもなく、その場の気分で行き先を変えるのが普通だ。極端な話、平尾台(福岡県)に出かけるつもりで、気がついたら秋吉台(山口県)にいたり、そのままカルスト地形を求めて四国へ渡ったりもする。無計画な旅はいかにも自由といった風情でこの上なく楽しいけれど、下調べをしないので旅先で美味しいものに出会えることは稀だ(最近はiPhoneのおかげで改善されつつある)。
 訪れた土地の名物料理を食したいと思いつつ、文字通り「名物に美味いものなし」でお茶を濁すこと幾たび。せっかく海べりに来たのだから新鮮な海産物をと思い、たまたま前を通りがかった良さげな店に飛び込みで入ったら、魚はすべて外国産だったりする。ギリギリ妥協案の御当地バーガーはマシな方だ。どうかすると、コンビニの店先でカップラーメンを啜ったりなんてことも珍しくない。

 ツーリング先の食事というのは、あらかじめ計画に組み込むとなると難しいものだ。旅の主役になるのは「オートバイに乗ること」であり、どれだけ気持ちの良い道を走るかが大前提となる。どんなに美味しそうな料理でも、市街地で延々とストップ&ゴーを繰り返さなくてはならないなら、わざわざオートバイで行く意味はない。
 それに、もともと目的地などあってないようなものだ。始めにコースありきで、目的地は目印の旗竿代わり、食事は旗で、まともに風にたなびく間もなく収納される。
 このあたりのニュアンスは、ツーリングライダーでなければわかるまい。上でも書いた、食事がコンビニの店先ですするカップラーメンでも許せるのは、ひとえにソロツーリングだからだ。
 しかし、これがマスツーリング(複数人で行くツーリング)になるとそうは言えなくなる。人数が多くなればなるほど、自由度が制限される。どこに行き、何を見て、何を食べるかが求められる。参加者の排気量や懐具合を鑑みた上で、脇役のキャスティングが重要になる。そこのところを理解して計画を練るのは骨が折れる。毎度のことながら、プロデューサー役には頭が下がるばかりだ。

 ソロツーリングが好きだからこそ、たまに出かけるグルメツーリングは貴重だ。一人旅の垢にまみれた無精者なれば、できればガイドブック片手に一人で探すのではなく(それも醍醐味には違いないが)、誰かにオススメの店へ連れて行ってもらうのが望ましい。そこでマスツーに参加するわけだ。この日の名脇役はしゃも料理 鶏家で、これはもう絶対に欠かすことのできない重要な役回りだった。
 じっさい、鶏家は素晴らしかった。料理も美味ければ、ツーリングの主役であるファームロードを丸々組み込んだ立地条件も最高だ。値段も良い。食材の豊しゃもを自前の牧場で飼育しているからこその価格だ。街中で食べるならプラス千円くらいが妥当な線ではなかろうか。ご飯(漬物付き)と味噌汁がお代わり自由なのもいい。主役を張れる力量を持ちながら、あえて脇役に徹する姿勢に助演男優賞を送りたい。

 この日の復路は雨に祟られ霧にまかれて、全身ずぶ濡れ、10メートル先も見えないような最悪のコンディションだった。景色を楽しむどころか、まともに走ることすら覚束ない。しかし、いかに主役の大根役者ぶりが目立っても、それを補って余りある脇役の仕事っぷりに救われた。まさに名バイプレイヤーだ。
 
店舗情報
しゃも料理 鶏家
大分県竹田市久住町大字久住2338−2

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by tigersteamer | 2013-03-12 14:14 | ツーリング飯