私はスクラップになりたい

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 先日、熊本市内に些細な用事があって、ツーリングがてらセローで下道をトコトコ走ってきた。朝早く出発したので時間はたっぷりあったし、予定というほどの予定があるわけでもないし、道草を食いながらの道程だ。途中の山鹿温泉で小一時間ほどお湯につかり、すっかり良い心持ちで昼食をとるのによさげな店を探していた。車の列を縫うように走りながら、ふと沿道に何か大切なものを見落としたような気がして、あわててオートバイを停めた。

 思い出のオート三輪。ただし、たいして懐かしくはない。通り過ぎてしまったほうが良かったのかも。錆び付いたボディを目の前にして、当時の記憶がまざまざと浮かんできた。一昨年の冬、福岡県の久留米市で働いていた時のことだ。職場の管理者が女性事務員と手に手をとって夜逃げしたことを知った、その翌日だった。
 立ち上げる以前から関わった会社は、オープンから半年経っても赤字続きだった。その数ヶ月前には、管理者と事務員2人、中間管理職的なポジションにいた僕の4人を除く社員全員が一斉に辞表を提出し、ついでにその翌日から出勤しなくなるというアクシデントがあった。急遽、補充された人員は全員フィリピン人女性で、日本語の読み書きもロクにできないくせに歌と踊りだけは上手だった。それでも、なんとか円滑に回り始めた矢先だった。

 まるで悪い冗談だ。なにも女性事務員まで道連れにしなくてもよかろうにとは思ったけれど、二人が深い仲だというのは、僕以外のすべての職員の知るところだったらしい。不思議となんの感慨もわかなかった。そりゃあ逃げたくもなる。毎月、決まった日に給料が出ているのが不思議なくらいだった。
 そんな中、福岡から職場のある久留米へと出勤する途中で、勤務先へと続く最後の角をどうしても曲がることができずに、そのまま直進して熊本の植木まで逃げた。携帯電話の電源は落としたまま。この青果市場の駐車場に放置してあるオート三輪の横に車を停めて、日が暮れるまでボンヤリしていた。

 あの頃の精神状態がどうだったのか、自分でもよくわからない。普通ではなかったはずだけれど、毎日のように役立たず、穀潰しと罵られながら、どこか他人事のように面白がっていたようなフシもある。実際、その翌日からは普通に出勤して、オーナーからボロカスに貶されても平気だったから、大したことはなかったのだと思うけれど。
 思い出したくもないけれど、あの一年があったから、今こうやって呑気にツーリングなんぞができるわけだ。なにかの糧になったという自覚はないけれど、そう考えると逃げなくて良かったのかもしれない。ただし、幸せになれたのは僕だけだ。

 責任の一端は自分の無能にあった。これだけは間違いがない。あの日、このオート三輪の並びで、すべての動きを止めてスクラップになってしまいたかった。もう一度、僕と関わったすべての人に会って謝りたいような気もする。今となっては、もはや叶わないことだけれども。

 何の役にも立たず
 邪魔なだけだが
 少なくとも害はない
 そんな生き方を望むのか。

 僕は役に立つ
 スクラップでいたい。
 雨に打たれ、風に晒され
 この身を錆びつかせても
 誰かのためにある
 スクラップでいたい。

 たわいもない言葉が
 時に人を癒すように。

 

 
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by tigersteamer | 2013-05-16 02:50 | 雑記 | Comments(2)
Commented at 2013-05-18 00:41 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by tigersteamer at 2013-05-18 10:15
ありがとうございます。喉元すぎれはなんとやらで、もうすっかり引きずっているものも断ち切れたつもりなんですが・・・いや、断ち切れたはず。平気平気。
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